「生活保護の人はちょっとねぇ……」
電話口で採用担当者がことばをにごす。自治体が民間に委託している、とある社会福祉施設の職員募集に応募したときのことだ。
「受給中の方は採用しないよう行政から指導されているので、生活保護を抜けてから応募してください」
そんなバカな、と云いかけて、しかしわたしはことばを呑み込んだ。
――支援はするが、一緒に働くのはゴメンというわけか……
イヤだというのをゴリ押しして、どうにかなる話でもない。
近年、吹き荒れた生活保護バッシングと法改正によって、わたしの周辺では、生活保護利用者への就労指導がいっそう厳しい。一部の人たちは、就業できるまでボランティア活動を求められるようになった。
自発性が要件であるボランティアを「させられる」という、奇怪な事態すら起きはじめている。勤怠をチェックされる人すら出てきているのだから、こうなるともう半ば強制労働だ。しかも無償なのである。
しかし、いざ就職活動をはじめると、福祉にかかっているという理由で不採用になってゆく。そうでなくとも、生活保護の利用者にはブランクが長い人も多い。説明のために現状を正直に話すと、戸惑いの表情を浮かべる採用担当者を数多く見てきた。
だが、不採用の連絡の際、その理由を述べる人は、これまでいなかった。その意味では冒頭の担当者は、ウソかホントか責任転嫁か、苦しい言い逃れではあるにしろ、きわめて正直だったと云えるのではないか。
行政府は社会保障費の削減を叫び、現場では締めつけが厳しくなり、生活保護の利用者はせき立てられて仕事を探し、しかし企業はそれを理由に不採用にする。おそろしく理不尽な構造が立ちふさがっている。
一部の政治家などが生活保護の利用者を槍玉に挙げ、マスメディアが特殊な事例を取り上げて問題をあおり、便乗した市民が利用者をバッシングする構図になって久しいけれど、生活保護を叩けば叩くほど利用者のイメージは悪くなり、どこの企業も雇用しないという悪循環に陥っているのだ。にも関わらず、改善の方向性は一向に見えてこない。
にっちもさっちもゆかず途方に暮れていたとき、日ごろのツテから仕事の声を掛けていただいた。福祉に理解があり、こちらの事情を承知のうえで雇っていただけるという。ありがたや、とふたつ返事で飛びついた。
結局、ハローワークなどをとおした通常の就業ルートは機能しなかった。わたしに仕事が見つかったからといって、生活保護利用者の雇用状況が改善されたわけではない。利用者に向けられる視線はまったく変わっていないのだ。
「生活保護なんかでブラブラしてちゃもったいないですよ」
声を掛けてくれた人ですらそう云ったものである。
――生活保護でブラブラ、か……
福祉について流布されるまちがったイメージを排することが今、求められている。
《野神健次郎 (のがみ けんじろう) : 生活保護利用当事者。精神疾患治療のかたわら、エッセイや動画配信などさまざまな方法をとおして、福祉の理念を伝える活動をおこなっています。》
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