反貧困ネットワーク《「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明》

反貧困ネットワーク」が《「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明》を2013年5月30日発表しました。その全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

2013年5月30日

生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明

私たちは、貧困問題の解決を目的として活動している市民団体です。
政府が本年5月17日に閣議決定した、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)につきまして、その内容に看過しがたい問題があるため、その廃案を求めて以下に緊急声明文を記します。

1 違法な「水際作戦」を合法化しようする点
現行の生活保護法では、保護の申請を書面による要式行為とせず口頭でも足るとされ、かつ、保護の要否判定に際して必要な書類の添付について、申請の要件とはしていません。
一方、改正案では、「要保護者の資産及び収入の状況」、「その他厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出し、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。
しかし、そもそも保護申請時に、諸資料の添付を申請者に求めるのは非常に困難です。ホームレス状態の人やドメスティックバイオレンスによって荷物を持たずに逃げてきた人など、諸事情によって資料をそろえられない人が、生活保護を利用できないと誤信し、申請をあきらめることが懸念されます。

2 扶養義務を事実上要件化しようとする点
次に、改正案は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを「義務化」しています。さらに、資産状況等の調査対象となる扶養義務者の範囲も拡大しています。
これに対し、現行法下においても、扶養義務者に対する通知が行われる運用はありました。それによって、保護の申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて、申請を断念する場合が少なくありませんでした。またドメスティックバイオレンスから逃げてきた女性や家族からの虐待があった場合には、扶養義務者へ通知することで暴力や虐待が再燃する危険があります。改正案によって扶養義務者への通知が義務化され、かつ調査対象も拡大し扶養義務者への通知が法律上避けられないものとなった場合、保護の申請を行おうとする要保護者は、より明確に扶養義務者への通知を恐れることとなり、一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかです。

3 厚生労働省の見解の矛盾
厚生労働省も5月20日におこなわれた生活保護関係全国係長会議において、申請時に口頭での申請を従来同様に認めることや、必要な書類の添付を要件とはしない旨、別途厚生労働省令で規定予定と説明しています。
また、扶養義務に関しては、その通知の対象となり得るのは、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限るとの旨、同じく別途厚生労働省令で明記すると話しています。
しかし、もしそうであれば、条文として明記することは必要なく、すでに現行法上でおこなわれている「水際作戦」の事例に、あたかも法的根拠を与えかねません。

4 その他多くの問題点が組み込まれている点
この2点の他にも、後発医薬品の原則義務化(34条3項)、就労自立給付金の創設(55条の4及び5)、生活上の責務についての規定(60条)、返還金の徴収金額の上乗せや事実上の天引きについて(78条)、罰則規定の強化(85条及び86条)、廃止理由の緩和(28条5項)など、多くの論点が、拙速な議論のもと組み込まれています。
これらは生活保護利用者一人ひとりの尊厳や自由を阻害するもので、管理することによって「自立を助長しよう」とする発想です。しかし、本来の生活保護における「自立の助長」とは、いわくその人のうちにある可能性を見出していく(小山進次郎)ものであり、これらの条文はその対極にあります。

5 結語
以上述べてきたように、改正案が成立すると、違法な「水際作戦」が合法化されて多くの要保護者が生活保護申請の窓口で追い返され、また、多くの要保護者が扶養義務者への通知をおそれて申請を躊躇うことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらずこれを利用することのできない要保護者が続出します。
改正案の法案提出理由には「国民の生活保護制度への信頼を高める」との記載があります。国民が求めているのは「水際作戦」を合法化するような、必要な人が利用できない生活保護制度への改正でしょうか。社会の責任を圧縮し、家族という不安定で不確かなものに責任を負わせる、穴だらけなセーフティネットへの改正なのでしょうか。
この改正案は要保護者の生活保護利用を抑制し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがあります。当ネットワークは、そのような事態を到底容認することはできません。よって、改正案の廃案を強く求めます。

反貧困ネットワーク代表 宇都宮健児

以上

☆転載終了☆

DPI日本会議《生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明》

DPI(障害者インターナショナル)日本会議」が《生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明》を2013年5月27日発表しました。全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

2013年5月27日

特定非営利活動法人

DPI(障害者インターナショナル)日本会議

議長 三澤 了

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-11-8 

TEL:03-5282-3730 FAX:03-5282-0017

E-mail:office@dpi-japan.org

武蔵野ビル5階


生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明

私たちDPI日本会議は、すべての障害者の権利と地域社会における自立生活の確立を目指して活動している障害当事者団体である。

近年の広がる貧困や東日本大震災などの影響により、生活保護の利用者が2013年1月で210万人を超えたということがマスコミ等で伝えられるなか、生活保護制度に対する締め付けが今年に入ってから厳しさを増している。政府は2013年8月から生活保護基準の引き下げを行い、3年間で740億円の財政削減を行うことを予定し、保護受給者の生活をより厳しいものにしようとしている。

さらに政府は、生活保護費の圧縮を図ることを目的とした生活保護法改正案を5月17日に閣議決定し、今国会での成立を図ろうとしている。この改正案は一言でいえば、生活保護申請の方法をきわめて厳しいものとし、生活保護を利用しにくいものにすることと、要保護者の扶養義務者に過重な扶養義務を課すことを法律で定めようとするものである。憲法25条に則り、市民生活の最後の砦であり、セーフティーネットであるべき制度が、十分な国民的な論議もないままに、より使いにくく、より深いスティグマとなる制度へ変えられようとしていると言わざるを得ない。

第1に問題となるものとしては、生活保護申請の手続きに関してであるが、現行生活保護法では、保護申請をするにあたっては申請書類の提出は絶対的な要件ではなく、要否判定に必要な書類の提出も申請要件とはなっていない。保護を認めるかどうかの判断をするうえで必要と考えられる書類は、申請時に保護を求める側が前もって用意することを求められてはおらず、申請を受けつけた後に保護を出す福祉事務所等が要保護者の協力の下で収集するものとなっている。実際には、これまでも要保護者が保護を申請しようとしても申請書を渡さなかったり、書類の提出を求めて追い返したりという、いわゆる「水際作戦」なる手段がとられることがあったようだが、厚労省はそれらに対して「保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより,申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。」とする通知を繰り返し出してきた。しかるに今回は、申請するに当たっては、要保護者の住所、氏名はもちろん、その人の資産、収入状況、扶養義務者の状況など厚生労働省が定める書類を提出しなければならず、要否判定に必要な書類も申請する人が集め提出するものとなっている。

生活保護を申請する人は多くの場合、生活に余裕はなく、切羽詰まった状況にある人だ。また、多くの障害者がこの制度を利用し、糧として暮らしてきたが、中には精神障害や知的障害をもち、保護の申請に必要な書類を自分で用意したり、自分が保護受給の要件を満たしていることを証明する書類を集めることが困難な人も多い。障害者にとって今回の「制度改正」は、生活保護制度の利用を最初からシャットアウトするものに等しく、とても容認できるものではない。

今回の改正においてこの「水際作戦」の合法化と並んで、障害者の地域自立生活にとって深刻な影響を及ぼすものとして、扶養義務の要件化によるこれまで以上の扶養義務の強化が挙げられる。現行生活保護法では、扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず、照会をし扶養義務者からの仕送り等がなされた場合に収入認定して、保護費から減額するにとどめている。実際には、生活保護受給者の扶養義務者に対して扶養を強要し、生活保護申請を思いとどまらせようとする事例も少なからず見受けられる。少なくとも法的には、扶養義務は生活保護受給の要件ではなく、親族の義務となるものではない。

ところが今回の法改正においては福祉事務所などの保護の実施期間が、保護申請者の親族等に対して扶養に関する報告を求めることが出来るとされている。また、これから生活保護を受けようとする人だけではなく、過去に生活保護を受けていた人の扶養義務者に対しても「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の関係人に,報告を求めることができる」と規定している。つまり生活保護を受けようとしたり、過去に利用したことのある人の扶養義務者はその収入、資産の状況について報告を求められたり、年金機構や銀行などの調査をされたり、場合によっては勤務先にまで照会をかけられたりすることもある、ということである。これらのことは扶養義務を相当強く求めるということであり、扶養できるかどうかを洗いざらい調査し、調査の結果によっては、事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることができるということである。

先にも述べたが多くの障害者が親きょうだいから独立し、あるいは病院や施設を出て、地域での自立した生活を営むために生活保護制度を利用し、生活を成り立たせてきた。しかし生活保護受給に関しては親きょうだいから強く反対されたり、病院や施設での生活を続けることを強要されるケースも少なくはない。地域での自立生活を求める障害者が懸命に親きょうだいを説得し、生活保護受給を実現させたケースも多い。こうした状況が今回の扶養義務の強化によってより厳しいものになり、障害者の自立をより困難なものにしてしまうことが十分に想定される。

繰り返しになるが、障害者の親きょうだいからの独立や病院、施設からの地域生活移行に当たっては、障害年金をはじめとする障害者の所得保障の現状ではそれで生活を成り立たせることは困難であり、多くの場合生活保護制度は利用せざるを得ない制度である。そうした障害者にとって今回の「生活保護法の改正案」に盛り込まれた内容は、到底受け入れられるものではない。DPI日本会議としては生活保護法の改悪に強く抗議し、法案の撤回を痛切に求めるものである。

☆転載終了☆

生活保護問題対策全国会議《生活保護法改正案の修正合意をふまえての見解》

生活保護問題対策全国会議」が《生活保護法改正案の修正合意をふまえての見解》を2013年5月29日に発表しました。全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

2013年5月29日

生活保護法改正案の修正合意をふまえての見解

生活保護問題対策全国会議

現在、国会で審議中の生活保護法改正案(以下「改正案」という)について、私たちは、①違法な「水際作戦」を合法化し、②親族の扶養を事実上生活保護の要件とするものとして、撤回・廃案を求めてきた。厚生労働省は、いずれもこれまでの取扱いを変えるものではないと弁明してきたが、法文が変わる以上、そのような弁明は信じられないと私たちは批判してきた。

本日、民主、自民、公明、維新、みんなの5党が、①の点については、申請書や添付書類の提出を必須の要件とはしない内容に修正することで大筋で合意したと報じられている。衆議院で安定多数を確保する自公政権も、批判の声を無視することができず、余りにも行きすぎた制度改変に若干の歯止めがかけられたことは、運動の成果であり一定の評価ができる。

しかし、②の扶養義務の強化の点については修正合意の対象となっておらず、未だ問題は解決されていない。大阪市北区において、DV被害にあった母子が生活困窮の末に餓死するという痛ましい事件が大きく報道されているが、このような被害者が生活保護申請をした場合にも扶養義務者たる夫に通知(改正法24条8項)や調査(同28条、29条)がなされないとも限らない。また、これらの規定の存在により、夫への通知によって自分の居所が知られることを危惧したDV被害者が、困窮状態に陥っても生活保護申請さえためらうことになりかねない

改正案には、後発医薬品の事実上の使用義務づけ(同34条3項)、被保護者の生活上の責務(同60条)、保護金品からの不正受給徴収金の徴収(同78条の2)など、なお問題が残っているのであり、これらの規定についても削除又は修正等がなされない限り、廃案を求めざるを得ない。
私たちは、今後の国会審議において、①現行よりも申請手続きを厳格化するものではないことがより具体的に確認され、②の点についても削除又は修正等がなされる十分な審議が行われることを期待し、国会審議の行方を注視するとともに、より一層運動を強めていく所存である。

以 上

☆転載終了☆

日本司法書士会連合会《生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明》

日本司法書士会連合会が《生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明》を2013年5月29日に発表しました。全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明

日本司法書士会連合会
会長 細 田 長 司

政府は,生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)の今国会での成立を目指し,本年5月17日に閣議決定した。この改正案には,①行政窓口における,いわゆる「水際作戦」を合法化させる,②生活保護の申請に対し萎縮的効果を生み,本当に必要な人が申請できなくなる,という問題を含んでいることから,今般の改正案の内容で生活保護法を改正することに反対する。

まず,申請の際に提出する書類について,改正案では「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならない(改正案第24条第1項)とし,申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」(同条第2項)としている。現行生活保護法では,申請書の提出や書類の添付は保護申請の要件とされず,保護申請の意思があれば,まずはこれを受け付け,実施機関側がその責任において調査権限を行使し,必要書類を収集し保護の要否判定を行うこととしている。しかし,改正案では,申請者側に必要書類を収集して提出する義務を定め,事実上,申請者自身が要保護状態であることを証明しなければならなくなる。
これにより,次のような問題が生じると考えられる。
① ホームレス状態の人やDVで自分の荷物をまったく持たずに逃げてきた人などは,保護申請に必要な書類を提出することができないこと
② 居宅がある人でも心身に障害を抱えた人は,外出も容易でない人が多く,必要書類を揃えるのも時間がかかり,適切な時期に保護申請ができないこと
③ 成年後見人が成年被後見人に代わって保護申請をする場合は,事理弁識能力を欠く常況にある被後見人とコミュニケーションを取ることも難しいことから,必要書類をすべて揃えられる可能性が低く,適切な時期に保護申請できないこと
このように改正案は,現在全国の生活保護行政で行われている「水際作戦」と呼ばれる,現行法では認められていない違法な申請権侵害行為を合法化するものであって,到底容認できるものでない。
 
次に,保護の実施機関に対し,改正案では,保護開始の決定をしようとするときは,あらかじめ扶養義務者に対して,厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている(改正案第24条第8項)。しかし,現実には,保護申請を行う際に,それまでの関係を考え,扶養義務者への通知により親族とあつれきが生じるのを恐れて申請を断念する場合も多く,すでに生活保護受給中の者についても,扶養義務者に対する通知が行われることになることから,保護申請や保護受給がしにくくなることは明らかである。
さらに,扶養義務者への通知を義務化し,調査対象を拡大することによって,扶養義務者への通知が法律上避けられないものとなると,扶養義務者の多い者ほど生活保護を受けにくくなり,生活保護法の無差別平等原則に反することとなると考える。
 
改正案は,すでに各自治体で行われている自死対策や餓死・孤立死対策をも有名無実化し,再び多くの自死・餓死・孤立死等の温床になる恐れがあり,日本国憲法の生存権保障(憲法第25条)の理念に抵触するものである。よって,これまで多くの生活保護者に対する支援を行ってきた当連合会は,今般の生活保護法の改正に反対し,法案提出をしないよう求めるものである。

☆転載終了☆

東京災害支援ネット(とすねっと)《生活保護法一部改正法案の廃案を求める要望書》

東京災害支援ネット(とすねっと)災害支援団体として生活保護法一部改正法案の廃案を求める要望書》を、2013年5月25日、正当団体宛執行しました。全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

要 望 書

PDF→ http://goo.gl/t3S7S

 

とすねっと要望書第37号

2013年5月25日

政党各位

 

東京災害支援ネット(とすねっと)

代 表(弁護士)  森 川   清

(事務局)

東京都豊島区駒込 1-43-14 SK90ビル 302

  森川清法律事務所内 (連絡先電話)080-4322-2108

 

私たちは、東日本大震災の被災者及び福島原発事故の被害者の支援をしている法律家と市民等のグループです。

今般、生活保護法の一部を改正する法律案が国会に上程・審議されているが、本法案は、災害時の生存権保障の観点から重大な問題があると言わざるを得ず、廃案を求めるものである。

 

第1 要望の趣旨

生活保護法の一部を改正する法律案を廃案するよう求める。

 

第2 要望の理由

1 現在、生活保護法の一部を改正する法律案(以下、「法案」という。)が国会に上程、審議されている。

法案は、申請による保護の開始及び変更について条文(第24条)を新設し、これまで口頭で申請することが可能であった生活保護の開始及び変更の申請について、書面主義を採用していることが最大の改正点である。

法案では「厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出してしなければならない。」(第24条第1項柱書)とし、さらに「前項の申請書には、要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。」(同条第2項)としている。すなわち、申請書及び添付書類を提出しない者は申請による保護の開始をすることができない仕組みである。

2 平成23年3月11日、日本を襲った東日本大震災や福島原発事故により、多くの被災者・被害者が、その生活の基盤をすべて奪われ、着の身着のままで避難をすることを余儀なくされた。特に、生活困窮者は、生活の基盤が奪われると、生活を続けることは困難となるので、憲法25条の生存権の保障を全うするため、速やかに保護を開始する必要があった。そこで、国は、震災直後の3月17日「東北地方太平洋沖地震による被災者の生活保護の取り扱いについて」を発して、迅速かつ適切な保護の実施を周知徹底した。

3 しかしながら、現在の災害時の混乱状況の中において、もし法案が可決すると、法案の規定する申請書に記載すべき資産及び収入の状況(第24条第1項第4号参照)を把握することができないなどの事情が生じることが考えられ、申請者は申請書の記載に支障を来たし、申請書の提出を躊躇することが予想される。また、関係機関の機能不全により、法案の規定する添付書類を収集することは極めて困難であるにもかかわらず、速やかに保護を開始することができないという最悪な事態に陥るおそれが極めて高い。

法案が成立することによって、かかる事態を生じさせることは、憲法25条の保障をないがしろにするものであり、違憲な行為であると言わざるをえない。

4 災害が発生した際には、厚生労働省が申請書類の提出について柔軟に対処するよう求める通知等を発し、運用によって乗り切るという考えもあるかもしれない。しかし、上記のような運用が通知されたとしても、法律に書面主義が明記されている以上、法律に従った申請書の記載事項の欠缺や添付書類の添付がないことを理由に申請が却下された場合には、不服申立てをすることができない。運用によって法律を変えることはできないからである。

書面主義の採用は、生活困窮者の状況に応じた生活保護法の柔軟な運用を妨げる要因にもなりかねないのである。

5 加えて、各自治体の生活保護行政の窓口では、現在においても、保護を抑制しようとする違法・不当な申請権侵害または受給権侵害が繰り返されている。

東日本大震災による被災や被害で避難している方でさえ、被災地・被害地の自治体で保護を受けるよう水際で申請権を侵害するという行政対応は少なからず報告され、義援金や原発事故仮払補償金を受け取ったことをもって保護廃止されるなど、苦しめられた経験がある。

このような憲法で保障された生存権をないがしろにする行政対応は、決して許されないものであるが、法案が可決されると、今以上に抑制姿勢が明確となり、有事において深刻な結果を惹起しかねない問題である。

6 日本は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)を批准している。国連の社会権規約委員会は、このほど、「生活保護の申請手続を簡素化し、かつ申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとるよう、締約国(注・日本)に対して求める。」との勧告(日本政府の第3回定期報告書に関する総括所見)を出した。書面主義によって申請手続を現在以上に煩雑なものに改悪することは、基本的人権である社会権の国際的なスタンダードからも許されないことである。

7 このように、法案による書面主義の採用は、憲法25条によって保障された生活保護の申請権・受給権の侵害に拍車をかけるおそれが大きいばかりでなく、いざ大規模災害が発生した際に、人命にさえ影響を及ぼし、国際的にも批判されるような内容であるので、これを成立させることは許されない。

よって、すみやかに、法案は廃案されるべきである。

以上

☆転載終了☆

《三郷生活保護裁判弁護団等による生活保護法改正案に抗議する緊急声明》

三郷生活保護裁判弁護団等による生活保護法改正案に抗議する緊急声明》が2013年5月21日に発表されました。その全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

生活保護法改正案に抗議し、その撤回・廃案を求める緊急声明
 
政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。
改正案は、本来、すべての国民に「権利」として保障されている保護申請権について、行使の自由を奪い、これを不当に抑制するものであり、申請権を形骸化させるものであるから違法、違憲の誹りを免れない。


1 現在の運用上の問題点-申請権の抑制

(1) 水際作戦とその常套手段

生活保護の実施機関は、有効な申請があれば、保護の要件を吟味し、保護を開始するか却下するかを期限内に回答する義務(審査応答義務)を負う。逆に、有効な申請がなければ審査応答義務を負わず、不作為の違法を問われることはない。

ところで、生活保護の窓口においては、これまで、要保護者が申請意思を表明しても、申請があったものとして扱わず、単なる「相談」として処理し、審査応答義務を回避するという違法な「水際作戦」が横行してきている。その常套手段とされてきたのが、申請意思が表明されても①申請書を交付しないという方法であり、また、②現行法では申請時には必要とされていない給与明細、預金通帳、年金手帳等の資料提出を求めて追い返すという方法である。

実際、さいたま地方裁判所が、本年2月20日に、三郷市福祉事務所による申請権の侵害を認定し損害賠償を命じた三郷事件においても、要保護者が繰り返し窓口に足を運び申請意思を表明したにもかかわらず、福祉事務所は約1年半に渡り申請書を交付しなかった。裁判において、証人として出廷した複数のケースワーカーは、申請意思が表明されても、申請書を出すか否かは、その都度、所内で協議して決定する運用である旨証言しており、また、三郷市は、水際作戦の再発防止のため福祉事務所のカウンターに誰でも手に取れる形で申請書を備え置くべきであるとの弁護団の要請を明確に拒否した。このように、申請書は自由に入手できない形で保管され、申請意思が表明されても、やすやすとは申請書を交付しないという形で、申請扱いにせず、審査応答義務を回避するという運用が行われてきているというのが実務の現状であり、要保護者にとっては、申請書を交付してもらうことが、生活保護を利用するための厚い障壁となっている。

また、派遣切り等で仕事と住居を喪失した人やDVから逃れてきた人など、ぎりぎりの状態まで追い詰められた人は、預金通帳や給与明細などを所持していないことが多いにもかかわらず、生活保護の窓口でこれらの書類の提出を要求されて追い返される例が後を絶たないというのが、これまでの反貧困ネットワーク埼玉等の支援活動の中で確認されてきた事実である。これまでは、厚生労働省でさえ、「住宅賃貸借契約書や預金・貯金通帳など、申請者が申請時において提出義務を負わないものの提出を求めることを内容とした書面を面接相談の際に使用し、それらの提出が申請の要件であるかのような誤信を与えかねない運用を行っている事例等、申請権を侵害、ないし侵害していると疑われる不適切な取扱いが未だにに認められている」(平成25年3月11日厚労省社会・援護局関係主管課長会議資料参照)として、同様の認識を示しているところである。

(2) 扶養照会による申請抑制効果

現行法下においても、扶養義務者に対する扶養照会が行われている。

生活保護を利用しようとする者の親族もまた生活に困窮していることが多く、そうでなくても、DV等の様々な事情により疎遠になっていたり関係が悪化していることが多い。このような背景がある中で、扶養義務者への通知がなされることにより、親族間の軋轢があらためて生じることやスティグマ(恥の烙印)を恐れて、申請を断念する場合が少なくなく、扶養照会によって申請が事実上抑制されているという現状がある。

(3) 捕捉率

このような違法な水際作戦の横行や扶養義務者に対する扶養照会等が行われている結果、生活保護の捕捉率(制度の利用要件を充たす者のうち現に利用できている者の割合)は、現行法下においても、わずか2割程度であり、諸外国に比べ著しく低い水準にある。

2 改正案の内容と問題点

(1) 改正案24条1項2項について

改正案は、生活保護の申請は、申請書を提出してしなければならず、また、この申請書には保護の要否判定に必要な書類を添付しなければならないとする(改正案24条1項、2項)。これは、申請書を提出し、かつ、申請書に給与明細等の必要書類を添付しなければ、有効な申請にはならないということを意味する(申請の要式行為化)。

上記のとおり、これまで、申請意思が表明されても①申請書を交付せず、あるいは②給与明細等の資料提出を求めて追い返すという方法を常套手段とする水際作戦が横行してきた。現行法下においては、申請は非要式行為とされ、口頭による保護申請も認められるというのが確立した裁判例であるから、このような水際作戦に対しては、支援者が窓口に同行したり、口頭による申請があったにもかかわらず審査応答義務を果たさなかった違法行為に対しては三郷事件のように訴訟で争うといった方法によって対抗し、違法行為を是正し、抑止することが可能であった。

しかるに、改正案が成立すれば、要否判定の必要書類を添付した申請書を提出しなければ申請とは認められず、口頭のみによる申請は要式を充たさないものとして無効となるから、福祉事務所は、これまで違法とされてきた①申請書を交付せず、②添付資料の提出を求めて追い返すという常套手段を、今後は法律のお墨付きを得て、合法なものとして堂々と駆使できることとなる。その結果、これまで以上に生活保護の申請が抑制され、捕捉率の低下を招くことは、必至である。

(2) 改正案24条8項、28条2項、29条

改正案28条2項は、保護の実施機関が、要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができると規定している。また、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。さらに、改正案29条は、保護の実施機関に対し、扶養義務者の収入等につき、税務署等に対する広範な調査権限を付与している。

このような改正案が成立すれば、扶養義務者との軋轢やスティグマを恐れる要保護者に一層の萎縮効果を及ぼし、生活に困窮する者の多くが、保護申請を断念する事態になることも明らかである。

3 保護申請権を形骸化させる改正案の撤回・廃案を

憲法25条は、すべての国民が健康で文化的な生活を営む権利を保障し、これを具体化した生活保護法は、すべての国民に対し、生活保護の請求権を無差別平等に保障し(2条)、保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請について、保護申請権をすべての国民に保障している。改正案は、憲法及び生活保護法によって、「権利」として保障された申請権行使の自由を奪い、これを形骸化させ、憲法25条を空文化させるものである。また、生活保護制度の見直しについて諮問されていた社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」においても、まったく検討されなかった事項を改正案に盛り込んだという点で手続的にも重大な疑義があり、到底容認できない。

政府は、閣議決定後、運用に変更はないとの弁明を始めているが、運用に変更がないなら、そもそも、あえて法律を改正する必要はないはずである。

よって、改正案の内容及び手続過程の不当性に強く抗議の意を表明するとともに、その撤回、廃案を強く求める。

2013年5月21日

三郷生活保護国家賠償請求訴訟原告弁護団
団 長  中 山 福 二

反貧困ネットワーク埼玉
代 表  藤 田 孝 典

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ホームレス総合相談ネットワーク《生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書》

ホームレス総合相談ネットワーク」(代表・森川文人〈弁護士〉)が《生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書》を2013年5月23日に発表しました。

☆転載開始☆

生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書

PDF→ http://goo.gl/wrQxS

2013年5月23日

ホームレス総合相談ネットワーク  代表(弁護士) 森 川 文 人

1 ホームレス総合相談ネットワークとは[A1]   私たちホームレス総合相談ネットワークは、主として東京都内においてホームレス状態にある人々をはじめとする生活困窮者に対する法的支援活動を行っている団体です。

2013年5月16日閣議決定された生活保護法改正案は、憲法25条に照らして重大な問題があることから以下のとおり意見させていただきます。

2 申請手続を要式行為とする改正案の概要
改正法案24条1項は、生活保護の申請にあたり、これまで口頭で申請の意思が示さ  れれば、申請行為としては足りるとされていた実務運用(大阪高裁平成13年10月19日判決(訟月49巻4号1280号〔上告棄却・確定〕)を改め、申請書の提出を申請者に対して義務付けています。そして、当該申請書には、「要保護者の氏名及び住所」等だけでなく「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」のほか「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出してしなければならないとし、同条2項は、申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。

3 改正案がもたらす事態
しかし、生活保護申請にあたって生活に困窮して福祉事務所を訪れた申請者に対して、複数の申請書の提出に加えて多岐にわたる書類の添付を義務付けることは、申請者の申請意思を抑圧・萎縮させることに直結します。本件改正は、生活保護の申請に不当な障壁を設けることにつながり、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する憲法25条に違反すると言わざるを得ません。

とりわけ、ホームレス状態の方々は、憲法上の権利として生活保護が受給できることをそもそも知らず、また、長期間の路上生活により心身共に疲弊しているなど、自ら生活保護を申請することが能力的にも困難な方が少なくありません。文字を読み書きする能力も無い方も大勢います。精神等の疾患を抱えて、書類の意味さえ理解できない方も決して珍しくありません。

ホームレス状態の方々は、全員住所をもたないため、郵送物を受け取ることができません。つまり、彼らが生活保護の申請をしようとした場合には、食事にも事欠くような絶対的貧困の状態にあり、電車賃すらないにもかかわらず、申請に必要な添付書類を集めるために、遠隔地にある複数の作成機関の窓口に、直接本人が行って、書類の交付を求めざるを得ないのです。なお、住所を持たないということは、ホームレス状態にある方々は、有効な身分証明書を持たないことも意味します。このような状態で、仮に本人が窓口までたどり着いたとしても、身分証明をもたない本人に対して、個人情報を多く含む必要書面の交付がなされうるのか、極めて疑わしいものです。

そのような方々に「申請書」の提出と複数の書類の添付を義務付けることは、不可能を強いるに等しい事態です。

上記法改正は、生活保護の申請を不可能にするという現実の効果をもたらすことは必至です。また、現実の生活保護行政をみても、福祉事務所の窓口で生活困窮者を追い返す「水際作戦」と称される違法な申請不受理、申請書不交付の事例が社会問題化しています。

このようなホームレス状態にある方々、その他の生活困窮者の置かれた状況、現実の福祉事務所における対応の実態を踏まえれば、今回の改正案によって申請書の提出、書類の添付を申請者に対して義務付けることにより、生活に困窮した人の生活保護申請を現在より一層困難にすることは明らかです。また、福祉事務所職員による違法な申請不受理、申請書不交付などの「水際作戦」にお墨付きを与えるものとなってしまいかねません。

4 改正案は、憲法25条1項に違反します
そもそも、生活保護制度は、憲法25条1項に基づき、全ての生活困窮者に対して健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度です。  生活保護申請行為に申請書、複数[A8] 書類の添付を要求する今回の改正案が申請者に一定の義務を課し負担を負わせるものである以上、法改正にあたっては、改正する必要性、合理性があるのか生活保護行政の実態と憲法25条1項で保障される権利の観点から吟味されなければなりません。今回の改正案は、不正受給対策のためと言われていますが、立法目的との関連も明確ではありません。

実際の生活保護制度をめぐる現状を踏まえれば、そもそも改正の必要性は存在せず、むしろ改正によって生活に困窮した人がより一層生活保護を申請しづらくなるという具体的弊害が予想されている以上、改正の合理的理由はまったく認められず、憲法25条1項に違反すると考えます。

5 廃案を求めます
私達は、ホームレス状態にある方々の法的支援を行い、福祉事務所において生活保護申請の支援を行う者として、今回の改正案によって、福祉事務所の現場でおこる苛酷な事態を容易に想像することができ恐怖すら感じています。  今回の改正案は、憲法25条1項が保障する生存権を奪う違憲な法案立法であると言わざるを得ず、法律家として断じて認めるわけにはいきません。改正案が、速やかに廃案とされることを求めます。                                       以上
☆転載終了☆

動画「生活保護制度の今とこれから」河邉(こうべ)優子(弁護士)

YouTube動画を紹介します。「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションのなかま河邉(こうべ)優子さん(弁護士)が《生活保護の今とこれから》を語っています(動画冒頭~28分過ぎ迄。後半は質疑応答)。


生活保護制度の今とこれから / こうべ 優子 ( 弁護士 ) [ 2013.04.13 ](再生時間約1時間)

2013年4月13日、東京・水道橋「スペースたんぽぽ」で開催されたイベント《格差・貧困に抗う「怒れる者たち」の連帯を!4.13FORUM 社会の底辺から「生きる希望」と「公平・平等な権利」をつかみ取るために!》。主催:「持たざる者」の国際連帯行動。

仙台弁護士会《生存権保障を後退させる生活保護法改正案の廃案を求める会長声明》

仙台弁護士会が《生存権保障を後退させる生活保護法改正案の廃案を求める会長声明》を2013年05月22日発表しました。

☆転載開始

生存権保障を後退させる生活保護法改正案の廃案を求める会長声明

2013年05月22日

1 政府は、平成25年5月17日に生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。
しかし、この改正案には、生活保護申請をしにくくするとともに、受け付けられるべき生活保護申請を福祉事務所が受け付けないという違法行為(いわゆる「水際作戦」)が横行して生活保護制度の利用が抑制され、生存権(憲法25条)保障が揺らぐ事態を招きかねないという重大な問題点がある。

2 改正案における生活保護法24条1項は、保護開始の申請について「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」や「その他要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な事項として厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出して行わなければならないとし、また、同条2項は、前記申請書に、保護の要否等を決定するために必要なものとして「厚生労働省令で定める書類」を添付しなければならないとしている。
このような改正案の内容について、厚生労働省は、これまでの生活保護行政の運用を変更するものではないと説明している。
しかし、現行生活保護法24条は、保護の申請を、書面によって行わなければならない要式行為とはしていない。かえって、生活保護申請の事実の有無が争われた事案において、口頭での申請も有効な申請として認められるということが裁判例上も確立している。
このような改正案が可決・成立すれば、生活困窮者が生活保護申請の意思を、口頭又は任意の書面で福祉事務所に伝えたとしても、法律上の申請要件を充たさないものとして受け付けられなくなるおそれがあるのであって、生活困窮者による申請権の行使を著しく制限するものに他ならない。

3 また、保護の申請書に何らかの書類を添付することも、現行の生活保護法は求めていない。そもそも、ホームレス状態であったりあるいはDV被害などから逃げ出したりして困窮している者ほど、改正案による生活保護法24条2項が想定するような預金通帳や過去の給与明細などの収入や資産等に関する資料を用意することが困難である。
それにもかかわらず、改正案による生活保護法24条2項が、申請書への書類の添付がなければ有効な申請として扱わないことを認めるのであれば、そういった困窮者を生活保護制度から閉め出すことになりかねない。

4 さらに、このような生活保護申請の要式行為化や申請書への資料添付の義務化が実現すれば、それを悪用した形での「水際作戦」が横行するおそれがある。
このような危惧は、福祉事務所の窓口において、「水際作戦」によって生活保護の申請権が侵害されたという事例の報告が、現在でも少なくないことからすれば決して杞憂ではない。
また、例えば、保護開始決定時に扶養義務者への通知を行うことを義務化する改正案24条8項には、親族への通知がなされることを恐れる生活困窮者への萎縮的効果が懸念されるなど、改正案にはその他にも問題となる部分がある。

5 これまでも、生活保護制度の利用から排除されたことにより、生活困窮者が餓死するなどの事態が発生していたが、以上のような改正案の規定は、生活困窮者が生活保護を申請する権利の行使を著しく制限するものであって、そのような事態を数多く発生させるおそれがある。
よって、当会は、生存権(憲法25条)保障という生活保護制度の役割を大きく後退させる改正案の廃案を強く求めるものである。

2013年(平成25年)5月22日

仙 台 弁 護 士 会

会長 内  田  正  之

☆転載終了☆

大阪弁護士会会長声明《要保護者の保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明》

「水際作戦」を合法化する生活保護法改正案について、大阪弁護士長声明を出しました(※PDFファイル)。

☆転載開始☆

要保護者の保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明

   政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出したが、改正案は、いわゆる「水際作戦」を合法化し、さらには、要保護者をより一層委縮させることにより、保護申請自体を抑制する効果を与えるという看過しがたい問題を孕んでいる。

   すなわち、まず、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面によることを要求しておらず、申請意思が客観的に明白であれば口頭による申請も有効であるとするのが確立した裁判例であり、また、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。

   しかし、実際には、全国の福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられ、大阪市においても、2007年に、片目失明等の後遺症に苦しむ男性が、生活保護の申請に赴いたにもかかわらず、窓口で診断書等をそろえてくるように言われて申請を拒否され、その後、同居していた認知症の母親と心中を図り母親を殺害するという痛ましい事件に発展したことが報道されている。

   ところが、改正案第24条1項は、生活保護の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書の提出をもってしなければならないとして要式行為化し、さらに同条2項は、申請書には「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」として、要否判定に必要な書類の添付までも必須の要件としている。しかしながら、このような改正がなされると、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けない取り扱いが合法的に行われることになり、まさに、これまで違法とされてきた「水際作戦」が合法化されることになる。

   次に、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けており、さらに、改正案第28条2項は、保護の実施機関が、保護の決定等にあたって、要保護者の扶養義務者等に対して報告を求めることができるとしている。また、改正案第29条1項は、過去に生活保護を利用していた者の扶養義務者に関してまで、官公署等に対し必要な書類の閲覧等を求めたり、銀行、信託会社、雇い主等に報告を求めることができるとしている。

   しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知によって生じうる親族間のあつれき等を恐れ、申請を断念することも少なくないことから、改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化され、調査権限が強化されることになると、要保護者の保護申請に対し一層委縮効果を及ぼすことは必定である。

   こうした改正案に対する批判の高まりを受けて、厚生労働省は、「必要な場合は口頭申請も認める」、「書類の提出は保護決定まででよい」、「扶養義務者への通知は極めて限定的な場合に限る」などとして、従来の取扱いを変更するものではないとの弁明をし始めている。しかし、改正案の文言上、そうした解釈自体困難であるし、仮に、そうした取り扱いを法律の下位規範である省令等をもって定めるとすれば、改正案の内容に正当性がないことを自ら自認することになる。

   当会は、2000年12月の近畿弁護士会連合会人権擁護大会を契機として、他会に先駆け、ホームレス問題などの貧困問題に取り組み、「水際作戦」の根絶に力を尽くしてきた。しかし、改正案は、こうした尽力を根本から否定し、生活保護法の根底にある憲法第25条の精神そのものを踏みにじるものであり、到底容認できない。よって、当会は改正案の廃案を強く求めるものである。

   2013年(平成25年)5月21日大阪弁護士会 会長 福 原 哲 晃

☆転載終了☆

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