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実効性のある「生活支援戦略」の策定と生活保障を求める特別決議

中央労福協が、生活支援戦略と生活保護に関する決議を出しています。
以下に紹介します。

実効性のある「生活支援戦略」の策定と生活保障を求める特別決議

政府は、生活困窮者に対する総合的な支援体系の構築をはかるための「生活支援戦略」の検討作業を進めており、年内に取りまとめが予定されている。
現在、政府のパーソナルサポートモデル事業が27地域で実施され、労福協は5つの地域で実施主体として関わっている。
既存の制度や施策の網の目から漏れた複合的な課題を抱えた人たちに対する寄り添い型で総合的な生活就労支援体系を全国的に整備していくことが切実に求められている。

最後のセーフティネットである生活保護制度の機能を損ないかねない「生活保護バッシング」とも言うべき乱暴な議論が一部政治家やマスコミにより繰り広げられている。生活保護基準についても、予算編成過程において各方面から引き下げ圧力が強まることが懸念される。
生活保護受給者数が210万人を突破し、その増大自体が問題視されているが、問われるべきは、フルタイムで働いても食べていけない、働きたくても働けない社会の有り様にある。
政治や行政がまず行うべきことは、雇用の創出・立て直し、社会保障の充実、生活保護に至る手前でのセーフティネットの構築、所得の再分配機能の強化をはかることである。
生活保護に頼らざるを得ない社会の構造を放置したまま、財政圧縮を名目に生活保護の抑制をはかり、必要な人が必要な支援を受けにくくなるというのは許されることではない。むしろ、生活保護制度も積極的に活用しつつ、初期段階からの包括的かつ伴走型の支援を行うことで、本人の自立も早まり、結果として長期的な社会的コストも軽減できるものと考える。

こうした観点から、中央労福協は、政府および与野党に対し以下の事項を求める。

1.生活支援戦略の取りまとめに当たっては、伴走型支援の充実や社会的包摂の推進という本旨にそって全体を整合性あるものとすること。また、体制整備、人材育成、ノウハウの蓄積等を着実に実行できる財源を確保すること。

2.生活支援戦略の中に住宅手当制度の恒久化を位置づけること。

3.生活保護制度の見直しにあたって、扶養義務の強化や医療費の自己負担導入、後発医薬品の使用義務化は行わないこと。

4.生活保護基準は“いのちの最終ライン”であり、その引き下げは、現に生活保護を利用している人だけでなく市民生活全体に影響を与えることから、現行の水準を尊重すること。

以上、決議する。

2012年11月16日
中央労福協 第5回加盟団体代表者会議

STOP!生活保護基準引き下げのチラシ

「STOP!生活保護基準引き下げアクション」のチラシです。

表面

表面
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裏面

裏面
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生活保護基準引下げに対し強く反対する総会決議(東北生活保護利用声援ネットワーク)

生活保護基準引下げに対し強く反対する総会決議

1 有名芸能人の親族が生活保護を受給していたことへの批判から端を発した「生活保護バッシング」を契機として、生活保護基準を引き下げようという動きが加速している。
具体的には、以下のようなものである。

①平成24年8月10日に国会で成立した社会保障制度改革推進法の附則第2条では、「生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化」という文言が入れられた。
②平成24年8月17日に政府が閣議決定した「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」では、「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組み、その結果を平成25年度予算に反映させるなど極力圧縮に努める」ものとされた。
③平成24年10月22日に財務省が財政制度等審議会に生活保護基準の切下げに向けた具体的提言を行い、同審議会では生活保護の見直しに向けた議論が始められた。
④厚生労働省が公表した平成25年度の予算概算要求の主要事項では、「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされている。そして、平成24年10月5日に開催された社会保障審議会生活保護基準部会で、厚生労働省は、第1十分位(全世帯を10の所得階層に分けた場合、その最も低い所得の世帯の層)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方法を取ることを提案した。
このまま行けば、年内には、生活保護基準の引下げが決定されてしまう可能性がある。

2 しかし、このような引下げの動きは、日々、電話での相談受付や申請への同行などの活動を通して生活保護の問題に取り組む当ネットワークとして、到底看過することはできないものである。
そもそも、生活保護制度は、憲法25条が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定していることに基づくものである。したがって、生活保護基準というものは、この「最低限度の生活」を保障できるものでなければならない。
この点、現在、生活保護を受給しながら生活をしている受給者の方の生活状況は、決して余裕のあるものではなく、切り詰めながらつつましく生活をしているというのが実態である。
 それにも関わらず、現行の生活保護基準を引き下げるということになれば、生活保護受給者の方々の生命や健康に関わる事態になりかねない。
 また、生活保護基準の引下げの影響は、生活保護受給者の方々だけにとどまらない。
 国や地方自治体の制度の中には、低所得者向けの施策を受けられるか否かの基準を定める際、生活保護基準の何倍というような定め方をしている例が少なくない。それらは、例えば、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の保険料・利用料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準などである。
 もし生活保護基準が引き下げられることになれば、こういった制度によって生活が支えられている、生活保護受給者以外の低所得者世帯の生活にも多大な影響を与えることになる。

3 これに対し、①生活保護基準が最低賃金額や国民年金支給額よりも高額である、②現在の国の財政事情を考えると引下げはやむを得ないという主張がなされることがある。
 しかし、①最低賃金額や国民年金支給額との比較については、生活保護基準を引き下げる議論に向かうべきではなく、むしろそれらの水準が低く生活を維持していくに足りないという現実を直視して、それらを引き上げる方向に向かうべきである。
 また、②現在の国の財政事情を指摘する意見についても、国民の「最低限度の生活」を国が保障するという生活保護制度の重要性や、生活保護費のGDPに対する割合がOECD加盟国平均2.0%に対して日本は0.6%(2007年(平成19年))とまだまだ低いこと、真の問題は生活保護の利用率が諸外国に比べて低く(例えば2010年(平成22年)のドイツにおける生活保護の利用率が9.7%であるのに対し、同年の日本は1.6%)、十分に生存権の保障がなされていないことであることなどを踏まえれば、生活保護基準の引下げを行うのは早計である。

4 当ネットワークは、生活保護制度を、利用する方にとって利用しやすく、その方の自立に資する制度にさらに改善していくことを求めると同時に、今般の生活保護基準の引下げに強く反対することを決議する。

平成24年11月16日
東北生活保護利用支援ネットワーク

生活保護制度の「新仕分け」に先立って厚生労働省と財務省の提案の撤回を求め、生活保護基準の引下げに改めて強く反対する会長声明(日本弁護士連合会)

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/121114.html

 生活保護制度の「新仕分け」に先立って厚生労働省と財務省の提案の撤回を求め、生活保護基準の引下げに改めて強く反対する会長声明

厚生労働省は、本年10月5日、生活保護の保護基準の妥当性を検証する社会保障審議会生活保護基準部会に対し、「第1十分位層」、すなわち全世帯を所得の順に並べた場合の下位10%の階層の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較すべきであるとの見解を示した(以下「厚生労働省案」という。)。

また、財務省主計局は、本年10月22日、財政制度等審議会財政制度分科会に対し、現行の生活扶助基準額との比較対象を「第1五十分位」、すなわち厚生労働省案より更に厳しい下位2%の所得階層の消費水準とすることを提案し、医療扶助費抑制のために医療費一部自己負担の導入を提案した(以下「財務省案」という。)。

さらに、本年11月8日の内閣府行政刷新会議において、生活保護制度は、今月16日から予定されている「新仕分け」の対象とされた。

このように、政府は、「適正化」の名のもとに、保護基準引下げを中心とする生活保護費抑制のための施策を次から次へと繰り出している。

しかし、厚生労働省案にせよ、財務省案にせよ、保護基準は最下層の低所得者の消費水準を上回ってはならないとの考え方によるものである点において共通しており、このような考え方は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護法の基本原理(第3条)に反するものである。

また、捕捉率が2割ないし3割と低く、所得が保護基準を下回るのに生活保護を受給していない人の数が800万人とも1000万人とも言われる現状では、厚生労働省案(下位10%)であれ、財務省案(下位2%)であれ、最下層の低所得者の消費水準を上回らないように保護基準を引き下げることが正しいとすれば、保護基準は際限なく引き下げられることになる。

財務省案は、生活保護利用者の1人当たり医療扶助費、入院医療費が一般国民(市町村国保)に比較して高額であるのは、全額公費負担に伴うモラルハザードが生じていることによるとの認識を前提としているが、生活保護を利用している世帯のうち8割弱が高齢者世帯と傷病・障害者世帯である(国立社会保障・人口問題研究所調べ)ことからすると、1人当たり医療費が一般国民に比較して高額となるのは、むしろ当然のことである。たとえ償還制を採用するにせよ、医療費の一部を自己負担とさせることは、一時的に最低生活費を割り込む事態を招来する点、重篤な疾病を抱える者ほど受診を抑制せざるを得なくなり症状の重篤化や場合によっては命の危険さえ招きかねない点において、憲法25条が保障する生存権を侵害するものと言わざるを得ない。

そもそも、生活保護制度は、我が国の生存権保障の基盤となる極めて重要な制度であり、財政的見地から安易な制度の削減を行うことは厳に慎まれるべきである。貧困率が16%と年々悪化している現状において、財務省や厚生労働省に求められているのは、税や社会保険料の応能負担原則の貫徹等によって社会保障の財源を捻出し、所得再分配機能を強化することで貧困を解消することのはずである。今般の厚生労働省案は、生活保護基準の引下げという結論先にありきで、社会保障審議会生活保護基準部会の議論を誘導しようとするものであり、財務省案や予定されている「新仕分け」は、さらに生活保護費の削減案を提示して、同部会に対して事実上の圧力をかけるものであって、到底容認できない。

このような動きの背景には、生活保護の不正受給が増加しているとの見方があると思われる。もちろん不正受給自体は許されるものではなく、それに対する対策をとるべきであるが、以前から指摘しているとおり、「不正受給」は金額ベースで0.4%弱で推移しており、近年目立って増加しているという事実はないのであって、生活保護基準の引下げにつながるものではない。

当連合会は、既に本年9月20日、「我が国の生存権保障水準を底支えする生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」を発表しているところであるが、今般の厚生労働省案及び財務省案に接し、両省案の撤回を求めるとともに、改めて、生活保護基準の引下げに強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月14日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司

生活保護基準引き下げに強く反対する会長声明(大阪司法書士会)

http://www.osaka-shiho.or.jp/osakakai/seimei.html#seimei34

 生活保護基準引き下げに強く反対する会長声明 

1.現在、政府において生活保護基準引き下げに向けた動きが進行している。
 2012年8月17日に閣議決定された「平成25年度の概算要求組替え基準について」においては「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組む」とされた。これを受けて厚生労働省が公表した2013年度の予算概算要求には「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされ、同年10月5日の社会保障審議会生活保護基準部会において、生活扶助基準について人員・年齢・級地について一般低所得世帯との消費実態との比較により基準を検証することが提言されている。さらに、同年10月22日、財政制度等審議会財政制度分科会では生活保護基準の切り下げに向けた具体的提言が行われた。

2.しかしながら、生活保護基準は、単に生活保護利用者に交付される保護費の基準であるだけでなく、我が国における最低生活保障基準(ナショナル・ミニマム)の重要な指標でもある。これを引き下げれば、次のような影響が考えられる。
 生活保護基準は、自治体の低所得者に対する種々の減免制度(地方税の非課税、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免、介護保険の保険料・利用料の減額、障害者自立支援法による利用料の減額、就学援助の給付等)の適用基準にも連動しており、例えば、就学援助については、大阪府下では小中学生の21%がこれを利用しているが、20市町村でこの適用基準を生活保護基準あるいはこの“1.数倍“としている。
 生活保護基準が下がれば、これらの制度を利用できなくなり、ひいては子どもの教育や医療、福祉サービスを利用できなくなる低所得世帯が増加することは避けられない。
 この他に、生活保護基準は最低賃金の引き上げ目標額ともなっている(最低賃金法第9条3項)。生活保護基準が引き下げられれば最低賃金も引き下げられ、非正規雇用などの低所得就労者の所得に大きな悪影響を与えることになる。
 以上のとおり、生活保護基準の引き下げは、生活保護利用者以外にも多くの低所得者・労働者の収支バランスを大きく悪化させる。これらの層の消費が落ち込むことによる景気への影響も無視できないであろう。

3.そもそも、生活保護の捕捉率(生活保護が利用要件を満たす収入・資産を有する者の中で、実際に利用ができている者の割合)は2~3割にとどまり、生活保護基準以下の収入・資産にも拘わらず生活保護を利用できていない者は数百万人にのぼる。むしろ、このような多数の受給漏れの状況を改善することが先決である。
 また、比較の対象となっている低所得世帯には、この受給漏れ世帯が多く含まれており、その消費実態は当然ながら生活保護世帯より低い。このような低所得世帯との比較により生活保護基準を引き下げることは、本末転倒である

4.貧困の拡大に歯止めがかからない中、生活保護の必要性・重要性はますます高まっている。当会が昨年実施した生活保護電話相談会でも、半日で74件もの相談があり、年金がない、収入が少ない、病気で働けないという相談者から、将来的に自分が生活保護を受けられるか不安という声が多く寄せられた。
 そのような実態に目を向けずに、徒に財政負担を軽くすることのみを目的として、生活保護基準を引き下げれば、経済的困窮者をさらなる困窮の極みに追いやり、餓死・孤立死・自死・貧困故の犯罪等を誘発することになりかねない。

5.従って、当会は、この生活保護基準の引き下げに対して強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月13日
大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

第11回社会保障審議会・生活保護基準部会を踏まえての緊急声明(生活保護問題対策全国会議)

http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-87.html

 第11回社会保障審議会・生活保護基準部会を踏まえての緊急声明 

1 はじめに 
 2012年11月9日、第11回社会保障審議会・生活保護基準部会が開催された。そこで厚生労働省が配布した資料や説明からすると、第1十分位(下位10%の所得階層)の消費実態と生活保護基準を比較し、生活保護基準を引き下げる方向での報告書のとりまとめに向けて着々と布石が打たれているように見受けられる。
 しかしながら、以下述べるとおり、こうした検証手法には大きな問題があるので、私たちは、より慎重な議論・検討を求めて本緊急声明を発表する。

2 最下位層との比較は際限のない引き下げを招く 
 そもそも、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する現状においては、低所得世帯の消費支出が生活保護基準以下となるのは当然のことである。にもかかわらず、最下位層の消費水準との比較を根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、保護基準を際限なく引き下げていくことにつながり、合理性がないことは明らかである。

3 水準均衡方式は「第1十分位の消費実態に生活保護基準を合わせる」というものではない 
 1984(昭和59)年以降採用されてきた生活保護基準の検証方式(消費水準均衡方式)は、中央社会福祉審議会が、生活保護受給世帯の消費水準を「一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準」であるとし、その均衡(格差)をそのまま維持せよと意見具申したのを受けたものであるが、その際、生活保護基準の妥当性検証の前提とされたのは、①平均的一般世帯の消費支出、②低所得世帯(ここでいう低所得世帯とは第1五分位(下位20%)と第2五分位(下位40%)の世帯)の消費支出、③被保護世帯の消費支出の3つの間の格差の均衡に留意するということであり、単純に第1十分位という下位10%の最下位層の消費支出に生活扶助基準を合わせるというものではない。

4 第1十分位との比較検証という手法は2007年の検討の際にも否定された
 2007(平成19)年末にも第1十分位との比較検証をもとに生活保護基準の引き下げが画策され、同年11月30日、舛添厚生労働大臣(当時)が引き下げ方針を明言したが、当時野党であった民主党をはじめとする国民各層からの反対の声と検証を委託された検討会の委員からも異例の声明が出されて引き下げが見送られた経緯がある。
 すなわち、民主党は、2007年12月5日、「貧困層の増加に合わせて、単純に生活保護基準を引下げることは、『負のスパイラル』による歯止めなき引下げを招きかねません。」などとする「生活保護基準引き下げに反対する談話」を発表した。
 また、当時の厚生労働省社会・援護局長が検討を諮問した「生活扶助基準に関する検討会」の5人の委員全員が、同月11日、「『生活扶助基準に関する検討会報告書』が正しく読まれるために」という異例の声明を発表し、「単身世帯の生活扶助基準額について検討する場合は、第1十分位を比較基準とする」と「その消費支出が従来よりも相対的に低くなってしまうことに留意する必要がある」、「(検討会報告書に)『これまでの給付水準との比較も考慮する必要がある』と加筆された」のは「『生活扶助基準額の引き下げには慎重であるべき』との考えを意図し、全委員の総意により確認されたところである。」として、これまでの給付水準との比較の観点から生活扶助基準の引き下げは慎重であるべきとの立場を明らかにした。仮に、今回、異なる立場を採用するのであれば、上記見解との整合性について、十分な説明がなされるべきである。

5 下位8割の等価年収のシェアが軒並み下がっている中で、水準均衡方式を採用し続けることには慎重であるべき
 今回の部会において示された「等価年収のシェアの推移」という資料によれば、1999(平成11)年から2009(平成21)年にかけて、第9十分位と第10十分位という上位20%の階層のみがシェア(取り分)を増やし、第1十分位から第8十分位という下位80%の階層はシェアを減らしている。すなわち、上位20%の富裕層のみが富の取り分を増やしており、下位80%は軒並み富の取り分を減らし、格差が拡大していることが明らかとなったのである。
 較差縮小方式から水準均衡方式に変わったのは、全体としての消費水準が上昇していっている状況を踏まえてのことである。第1十分位や第5十分位のシェア(取り分)が低下している中で、こうした階層との比較で「健康で文化的な生活水準」であるべき最低生活費を決めることには慎重であるべきである。この点は、部会においても山田委員、岩田委員が指摘しておられたとおりである。
 確かに、この年末までに、水準均衡方式に代わる新たな保護基準の検証方法を確立することは困難であろう。しかし、こうした問題が明らかとなっている以上、少なくとも、第1十分位や第5十分位との比較のみを重視して保護基準を引き下げる方向での取りまとめを行うことは許されない。今回は、従前と同様に水準均衡方式を採用するとしても、①平均的一般世帯、②低所得(第1五分位(下位20%)と第2五分位(下位40%))世帯、③被保護世帯の3つのうち、③の「これまでの給付水準」を重視すべき比重が、検討会委員が前掲見解を示した2007(平成19)年の時以上に増しているというべきである。

6 「耐久財の保有状況等について」の項目の選択は不十分且つ恣意的であり、これを根拠として第1十分位の社会的剥奪度が低いなどとは言えない
 委員の要求に応じて厚生労働省は、第1十分位と第3五分位の「耐久財の保有状況等について」比較する資料を提出し、耐久財の保有率等の差が小さいこと根拠として、第1十分位が第3五分位(真ん中の階層)に比べて社会的剥奪がされているとはいえず、第1十分位を検証の比較対象とすることが不当とはいえないと根拠づけようとしている。
 しかし、ここで選択された項目は、「年に1,2回程度は下着を購入する」「冷蔵庫」「洗濯機」「炊飯器」「カラーテレビ」「電気掃除機」「布団」といった、まさしく必要最小限度の生活基盤をなすものばかりであり、もともと所得のいかんにより保有率に差がつきにくい項目である。
 一方、2009(平成21)年全国消費実態調査の「年間収入階級・年間収入十分位階級・世帯主の年齢階級別1000世帯当たり主要耐久消費財の所有数量及び普及」(本書面には十分位階級別の普及率を抜粋したものを添付)によれば、平均あるいは第5・6十分位(第3五分位に相当)の普及率が6~7割に達している生活必需品でも、
   「洗面化粧台(63%⇔41.6%)」
   「電子レンジ(オーブンレンジ含む)(95.4%⇔88%)」
   「300L以上の冷蔵庫(68.8%⇔47.1%)」
   「ルームエアコン(83.1%⇔69.5%)」
   「食卓セット(食卓と椅子のセット)(69.4%⇔49.6%)」
   「ベッド(61.4%⇔48.2%)」
   「携帯電話(PHS含む)(87.5%⇔62.3%)」
   「ビデオレコーダー(DVDブルーレイを含む)(66.5%⇔38.5%)」
   「パソコン(66.6%⇔28.6%)」
   「ステレオセット又はCD・MDラジオカセット(67.3%⇔28.6%)」
   「カメラ(デジタルカメラを含む)(71.6%⇔37.7%)」
などは第1十分位での普及率は格段に低い。
 普及率6割以下のものでも、
   「温水洗浄便座(60.0%⇔36.7%)」
   「システムキッチン(50.2%⇔27.0%)」
   「学習机(50.6%⇔22.4%)」
などは、第1十分位の普及率は平均よりも相当低い。
 こうしてみると、第1十分位の生活実態は、文化、情報、教養など生活の質の点において平均的所得層に比較して相当に低く、社会的剥奪を受けていることが明らかである。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためには、どのような生活の質が保障されるべきかという視点に立って耐久消費財の普及率を比較し、社会的剥奪の程度を判断することが重要である。
 また、今回の比較は、あくまでも耐久消費財の保有状況を中心とした比較にとどまっている。しかし、「健康で文化的な」最低限度の生活を保障するという憲法的視点に立てば、社会的支出の項目、文化的支出の項目についての比較も同時になされなければ、「社会的剥奪」の程度を判断することはできないはずである。こうした視点を持たず、不十分、かつ、恣意的なデータをもとに第1十分位の生活実態が第3五分位と大差がないなどと結論づけることは到底許されない。
 なお、差の比較については、x/yではなくて、統計上の有意の差を計算すること(P値を使用した有意差の表示)が必要ではないかとの疑問もある。

7 分析方式の妥当性と少ないサンプル数を基にした数値を基準改定の合理的根拠とできるか
 岩田委員は、年齢、世帯人員、地域による様々なバリエーションについて全国消費実態調査(以下「全消」という)と保護基準の対比をして差が出たとき、その差が有意なのかの評価は別問題であること、個別のカテゴリーの全消データのサンプル数が極めて限られてくることから、その数値に信頼性があるのかが問題となることを繰り返し強調された。母子加算はいったん廃止されたが、その際、廃止の根拠とされた全消データのサンプル数が極めて少なく信頼性がないことを理由として復活されたが、同様の問題が生じ得る。
 年齢体系、世帯人員体系、級地間格差の検証に際して、そもそも回帰分析の方法によることが妥当なのか、回帰式の内容が妥当なのか、計算にあたって最低限必要なサンプル数を幾らくらいと考えるべきかについても慎重な検討が必要ではないか。
 少なくとも、恣意的判断がなされていないか検証可能なように、個別のカテゴリーごとの全消データのサンプル数と原データの内容等について情報が開示されることは必要不可欠である。

8 勤労特別控除について
 厚生労働省は、勤労控除、特別控除の見直しについて、全福祉事務所への悉皆アンケート調査をした結果をふまえ、廃止方向に結論付けようとしている。
 しかし、アンケート結果によれば、「臨時的就労関連経費を補填する役割を果たしている。」との回答が169福祉事務所(17%)、「臨時的就労関連経費の補填というよりも、可処分所得の増加によって就労インセンティブの促進に効果的につながっている。」との回答が497福祉事務所(51%)と、肯定的評価が約7割に達している。特に、稼働可能者に対する就労インセンティブをいかにして高めるかが検討課題とされている中、特別控除が「就労インセンティブの促進に効果的につながっている」との回答が51%もある。にもかかわらず、それを理由として廃止を結論づけようとするのであれば、牽強付会に過ぎ、何が何でも削減ありきの姿勢というほかない。

2012年(平成24年)11月14日
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾藤 廣喜

[添付資料:H21収入分位別耐久消費財の普及率(十分位抜き書き版)]

 

生活保護の給付基準切り下げに反対する会長声明(埼玉弁護士会)

http://www.saiben.or.jp/chairman/2012/0121026_01.html

  生活保護の給付基準切り下げに反対する会長声明

1 日本国憲法は、個人の尊厳を基本理念とし(第13条)、その実現のために、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」である生存権を保障している(第25条)。生存権は、国民が貧困に陥っているときに国から生活保障を受ける権利であり、貧困の原因を問わず、最後は国が国民の生活を保障することを内容としている。そして、生活保護制度は、生存権の保障を具体化した最後のセーフティネットであり、その中でも、生活保護の給付基準は、憲法第25条が保障するナショナルミニマム(国民的最低限)の根幹をなし、国民が人間らしく生活するための土台である。

2 ところが、昨今、国政などの各方面において、生活保護の給付基準を切り下げる動きが活発化している。
 2012年8月10日、社会保障制度改革推進法が成立し、その附則の中で、生活保護の「給付水準の適正化」が明記され、同年8月17日に閣議決定された「平成25年度の概算要求組替え基準について」では、「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取組み、その結果を平成25年予算に反映させるなど極力圧縮化に努める」とされた。これらを受け、財務省は同年10月22日、財政制度等審議会に生活保護基準の切り下げに向けた具体的提言を行い、同審議会において、平成25年度の予算編成に向けた生活保護制度の見直しの議論が始められた。

3 (1) しかし、生活保護の給付基準の切り下げに向けたこれらの動きは、上記のとおり、日本国憲法第13条、同25条及び生活保護法の趣旨から問題視されるべきであるとともに、生活保護受給者の生活実態に照らしても、極めて重大な問題を孕んでいる。
 即ち、これまでも、生活保護受給者は、必要最低限度の生活扶助費で、食費・被服費・光熱費などをまかない、全く余裕のない状態で日常生活を送ることを余儀なくされているが、そのような中で、生活保護の給付基準が切り下げられれば、生活保護受給者の生活は、さらに苦境に追い込まれることになる。
(2) また、このような動きは、その背景にある事実の認識について、再検討を要すると言うべきである。
 即ち、このような動きの背景には、近時の生活保護利用者数と生活保護費の増加があると言われているが、それらの増加の原因は、貧困の深化・拡大と高齢化社会の急速な進行に対し、雇用保険や年金などの社会保障制度が極めて脆弱であるという日本社会の構造に求められるべきであり、このような社会の構造に目を向けることなく、生活保護の給付基準の切り下げを議論するのは、あまりにも安易かつ拙速である。
 また、生活保護受給者の増加を問題視するものもあるが、実際には、わが国の生活保護捕捉率は、平成22年4月9日付の厚生労働省の発表でさえも、所得ベースで15.3%、保有資産を考慮しても32.1%と推計されている(平成19年国民生活基礎調査に基づく)。生活保護基準未満の低所得世帯のうち約7割が生活保護を利用していないという、この生活保護の捕捉率の低さと、本年に入ってから、札幌市、さいたま市、立川市、南相馬市などで餓死・孤立死が相次いで発生している事実とは、決して無関係とは言えない。このように、現状でも生活保護の捕捉率の低さは問題であるにもかかわらず、合理化による予算圧縮の名の下に、さらに生活保護基準を切り下げ、保護受給者数を抑制するというのであれば、国は、国民の生命・生存権を守ることを事実上放棄するというに等しい。
(3) さらに、就労を前提とする最低賃金額や40年間保険料を支払った場合の国民年金額が、就労を前提としない生活保護費よりも低いのは不当であるという議論もあるが、むしろ問題なのは、最低賃金や年金が低すぎるということである。しかも、生活保護の給付基準の切り下げは、最低賃金、課税最低限度額、社会保険の自己負担額などにも影響を及ぼし、生活保護受給者を経済的に追い詰めるだけではなく、国民生活全体の貧困化に繋がるという点で問題視されるべきである。

4 埼玉弁護士会は、貧困と格差が拡大・固定化する現代社会の中で、個人の尊厳と生存権の保障という憲法の基本理念を生かし、より豊かな国民生活の実現を願う立場から、生活保護の給付基準の切り下げに反対するものである。

2012年(平成24年)10月26日
埼玉弁護士会
会長 田島 義久

日本精神保健福祉士協会「生活保護基準の引き下げに断固反対する声明」

日本精神保健福祉士協会が「生活保護基準の引き下げに断固反対する声明」を出しています。以下に紹介します。

http://www.japsw.or.jp/ugoki/yobo/2012.html#10

社団法人日本精神保健福祉士協会 会長 柏木 一惠
   
本協会は、社会福祉学に学問的基盤を置く専門職団体として、生存権保障の根幹を揺るがすような生活保護基準の引き下げに断固反対の立場をとるものである。

2012年9月20日の日本弁護士連合会会長による反対声明の主旨(生活保護基準が国民の生存権保障に与える影響の大きさへの認識、当事者の声をも聴取し純学術的観点からの慎重な検討の必要性への認識、漏給層が大量に存在する現状の認識)に賛同したうえで、精神障害者の社会的復権・権利擁護と精神保健福祉の向上のための活動を行う専門職団体の立場から、生活保護基準の引下げに反対する理由を以下に述べる。

1.生活保護と精神障害者支援の関連から

我が国の精神障害者は、国策としての隔離収容主義の弊害である差別と偏見を受け続けた長い歴史を有し、今なお社会的入院の状態に置かれている人々も少なくない。また、長く医療の対象であって福祉の対象とされてこなかった歴史的背景もあり、他障害に比べて雇用の保障も立ち遅れている。年金や医療などの社会保険や福祉サービスも十分とはいえない状況下で、精神障害者の生活支援施策として、生活保護が唯一の社会保障制度となることも稀ではない。

よって我々は、この基準の引き下げが、最後のセーフティネットから漏れる精神障害者を増やすことに直結するという危惧を抱かざるを得ない。その見直しには、「財政目的の削減ありき」ではない検討や、生存権保障の理念に則った現状の認識に基づく慎重な検討を求める。

2.精神科医療の利用者への支援の観点から

地域生活を送る精神障害者には、精神科医療の活用により病状の緩和軽減を保つことで生活の安定を図っている人が少なくない。こうした人々にとって、継続的に外来やデイケアに通院通所すること、訪問看護等のアウトリーチ支援を受けることは、常に経済的負担を伴うものである。保護基準が引き下げられることにより、生活保護を受給することができず、しかも経済困窮のために切り詰めた生活を余儀なくされ、医療の利用を控え諦める人が増すことも想定される。

また、失業率と並行するといわれる自殺の問題に関しては、年間約3万人の自殺者が存在する状況が継続し、2010年の統計ではその原因・動機が特定できる者において、経済・生活問題は31.6%、精神的な健康問題は42.6%にも上る(警察庁調べ)。保護基準の引き下げによって生活困窮者を増やし、適切な精神科医療の利用を阻むことは、我が国が直面する自殺予防の問題をより深刻化させる危険性が高い。

このように、生活保護基準の引き下げは、利用者の精神的健康の保持増進を脅かす問題であり、我々は日常的にその受診受療を支援する立場から大きな危機感を抱くものである。保護基準引き下げによって、医療が受けられなくなる人が出ないよう生存権保障の理念に立ち返った慎重な見直しを求めたい。

3.精神障害者の退院促進の観点から

厚生労働省が精神科病院に長期在院している退院可能な患者の地域移行支援に着手して既に10年が経過した。しかし、長期入院者が退院に至る過程においては多様な支援策を必要とし、順調に退院促進が実現しているとは言い難い現状もある。

一方、これらの退院可能な患者の約2割が生活保護受給者であり、その人々に対する退院促進の取り組みは生活保護制度下でも推進されている。退院促進にはいくつかの方策が講じられているとはいえ、今後、生活保護基準の引き下げにより、この支援を活用する機会を逸する人が増すとすれば、退院促進という国の方向性に逆行するともいえる。このような事態は避けなければならないことから、保護基準の見直しにあたっては、派生する弊害までを見据えた慎重な検討を求めたい。

4.最後のセーフティネットの堅持を求める立場から

生活保護受給者の中には、その必要がありながら未だ精神科治療や保健福祉サービスの利用に至らず、他の社会資源とのつながりを持たない人々が存在する。生活保護ケースワーカーは最後のセーフティネットとして、これらの人々を医療・福祉の各関係機関につなぐ地道な働きをしているが、保護基準の引き下げに伴って生活保護ケースワーカーの援助さえ受けられなくなる未治療・未受診者が増すことも予測される。これは、換言すれば生存権保障のための援助の手が届かない人々を増やすことであり、国民の生命と生活を脅かす事態といえる。

本協会は、特に精神障害者への支援を生業とする専門職団体として、厚生労働大臣に対してもこのような危機感を共有したうえでの基準見直しを行うよう要望し、現段階における生活保護基準の引き下げには断固反対する。

なお、我々は、精神保健福祉領域におけるソーシャルワーカーとして、生活保護ケースワーカーとも連携協働しつつ、精神障害を持ちながら生活する人々の自己実現に向けた支援(広義の自立助長)を日々実践しており、引き続き生活保護の動向も見据えつつ各現場にあって誠実に職務遂行することを併せて表明する。

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