生活保護基準引き下げに強く反対する会長声明(大阪司法書士会)

http://www.osaka-shiho.or.jp/osakakai/seimei.html#seimei34

 生活保護基準引き下げに強く反対する会長声明 

1.現在、政府において生活保護基準引き下げに向けた動きが進行している。
 2012年8月17日に閣議決定された「平成25年度の概算要求組替え基準について」においては「生活保護の見直しをはじめとして合理化・効率化に最大限取り組む」とされた。これを受けて厚生労働省が公表した2013年度の予算概算要求には「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされ、同年10月5日の社会保障審議会生活保護基準部会において、生活扶助基準について人員・年齢・級地について一般低所得世帯との消費実態との比較により基準を検証することが提言されている。さらに、同年10月22日、財政制度等審議会財政制度分科会では生活保護基準の切り下げに向けた具体的提言が行われた。

2.しかしながら、生活保護基準は、単に生活保護利用者に交付される保護費の基準であるだけでなく、我が国における最低生活保障基準(ナショナル・ミニマム)の重要な指標でもある。これを引き下げれば、次のような影響が考えられる。
 生活保護基準は、自治体の低所得者に対する種々の減免制度(地方税の非課税、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免、介護保険の保険料・利用料の減額、障害者自立支援法による利用料の減額、就学援助の給付等)の適用基準にも連動しており、例えば、就学援助については、大阪府下では小中学生の21%がこれを利用しているが、20市町村でこの適用基準を生活保護基準あるいはこの“1.数倍“としている。
 生活保護基準が下がれば、これらの制度を利用できなくなり、ひいては子どもの教育や医療、福祉サービスを利用できなくなる低所得世帯が増加することは避けられない。
 この他に、生活保護基準は最低賃金の引き上げ目標額ともなっている(最低賃金法第9条3項)。生活保護基準が引き下げられれば最低賃金も引き下げられ、非正規雇用などの低所得就労者の所得に大きな悪影響を与えることになる。
 以上のとおり、生活保護基準の引き下げは、生活保護利用者以外にも多くの低所得者・労働者の収支バランスを大きく悪化させる。これらの層の消費が落ち込むことによる景気への影響も無視できないであろう。

3.そもそも、生活保護の捕捉率(生活保護が利用要件を満たす収入・資産を有する者の中で、実際に利用ができている者の割合)は2~3割にとどまり、生活保護基準以下の収入・資産にも拘わらず生活保護を利用できていない者は数百万人にのぼる。むしろ、このような多数の受給漏れの状況を改善することが先決である。
 また、比較の対象となっている低所得世帯には、この受給漏れ世帯が多く含まれており、その消費実態は当然ながら生活保護世帯より低い。このような低所得世帯との比較により生活保護基準を引き下げることは、本末転倒である

4.貧困の拡大に歯止めがかからない中、生活保護の必要性・重要性はますます高まっている。当会が昨年実施した生活保護電話相談会でも、半日で74件もの相談があり、年金がない、収入が少ない、病気で働けないという相談者から、将来的に自分が生活保護を受けられるか不安という声が多く寄せられた。
 そのような実態に目を向けずに、徒に財政負担を軽くすることのみを目的として、生活保護基準を引き下げれば、経済的困窮者をさらなる困窮の極みに追いやり、餓死・孤立死・自死・貧困故の犯罪等を誘発することになりかねない。

5.従って、当会は、この生活保護基準の引き下げに対して強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月13日
大阪司法書士会
会長 山内 鉄夫

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