群馬弁護士会が《生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明》2013年6月19日に発表しました。その全文を転載させていただきます。
☆転載開始☆
生 活 保 護 の 利 用 を 妨 げ る 「 生 活 保 護 法 の 一 部 を 改正 す る 法 律 案 」 の 廃 案 を 求 め る 会 長 声 明
2013年(平成25年)6月19 日
群馬弁護士会会長 小磯 正康
1 政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。そして、改正案は、本年6月4日、若干の修正が加えられた上、衆議院で可決された。しかし、改正案には、①違法な「水際作戦」を合法化する、②保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす、との二点において、看過しがたい重大な問題がある。
2(1)まず、改正案24条1項は、保護の開始の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
(2)改正案は、現行生活保護法24条1項が、保護の申請を書面による要式行為とせず、かつ、保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていないことと比べて、また、口頭による保護申請も認められるとする確立した裁判例(平成13年10月19日大阪高裁判決、平成25年2月20日さいたま地裁判決など)に照らして、保護申請権の行使に制限を加えるものであることは明らかである。現行生活保護法の下においてさえ、福祉事務所の窓口で申請意思を表示しても、申請書を交付しなかったり、要否判定に必要な書類を申請書と共に提出するよう求めるなどの違法な運用が行われてきた(いわゆる「水際作戦」)。改正案では、24条1項で申請書の提出を義務づけるとともに、同条2項で保護の要否の判定に必要な書類の添付を義務づけるなど、申請を要式行為に転換し、手続を煩雑なものとしている。これでは、添付書類の不備等 を 理 由 と し て 申 請 行 為 自 体 が あ っ た と 認 め な い 取 扱 い が 合 法 化 さ れ ることとなり、いわゆる「水際作戦」を助長することになりかねない。そしてその結果、申請ができないことにより保護を受けるべき人が保護を受けられない、あるいは申請できたとしてもその時期が遅れ 、困窮した状態に長くとどめ置かれたりするなど、生存権を侵害するような事態が発生するおそれが極めて大きい。
(3)改正案は、衆議院において、ただし書き の挿入により、申請書作成および書類の添付は、「特別の事情があるとき」は免除される旨の修正が施された(改正案24条1項、2項を修正)。しかしながら、条文上、申請行為を原則として要式行為とすることは変わっておらず、また「特別の事情」の解釈は第一次的には行政機関の裁量に委ねられるのであるから「水際作戦」が横行する危険性、ひいては申請者の 生存権を侵害する危険性はこの衆議院での修正によっても払しょくされていない 。
(4)なお、現行の生活保護法施行規則には、保護申請は書面を提出して行わなければならない旨の規定(2条)があるが、同規定は、法律による個別の委任に基づかない規定であり、これによって国民の権利を制限し義務を課すことはできないと解されている。
3(1)次に、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。(2)しかし、現行の生活保護法の下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくない。このように扶養義務者への通知には保護申請に対する萎縮的効果があり、これもあって、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)が2割程度に抑えられているところ、改正案によって一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかであり、容認できない。
4 以上の通り、今般の改正案は、「水際作戦」を合法化するものであり、生活保護申請に一層の萎縮的効果を及ぼすことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらず、これを利用することのできない要保護者が続出し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。これは我が国における生存権保障(憲法25条)を空文化させるものであって到底容認できない。よって、改正案の廃案を強く求める。
以 上
☆転載終了☆