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《三郷生活保護裁判弁護団等による生活保護法改正案に抗議する緊急声明》

三郷生活保護裁判弁護団等による生活保護法改正案に抗議する緊急声明》が2013年5月21日に発表されました。その全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

生活保護法改正案に抗議し、その撤回・廃案を求める緊急声明
 
政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。
改正案は、本来、すべての国民に「権利」として保障されている保護申請権について、行使の自由を奪い、これを不当に抑制するものであり、申請権を形骸化させるものであるから違法、違憲の誹りを免れない。


1 現在の運用上の問題点-申請権の抑制

(1) 水際作戦とその常套手段

生活保護の実施機関は、有効な申請があれば、保護の要件を吟味し、保護を開始するか却下するかを期限内に回答する義務(審査応答義務)を負う。逆に、有効な申請がなければ審査応答義務を負わず、不作為の違法を問われることはない。

ところで、生活保護の窓口においては、これまで、要保護者が申請意思を表明しても、申請があったものとして扱わず、単なる「相談」として処理し、審査応答義務を回避するという違法な「水際作戦」が横行してきている。その常套手段とされてきたのが、申請意思が表明されても①申請書を交付しないという方法であり、また、②現行法では申請時には必要とされていない給与明細、預金通帳、年金手帳等の資料提出を求めて追い返すという方法である。

実際、さいたま地方裁判所が、本年2月20日に、三郷市福祉事務所による申請権の侵害を認定し損害賠償を命じた三郷事件においても、要保護者が繰り返し窓口に足を運び申請意思を表明したにもかかわらず、福祉事務所は約1年半に渡り申請書を交付しなかった。裁判において、証人として出廷した複数のケースワーカーは、申請意思が表明されても、申請書を出すか否かは、その都度、所内で協議して決定する運用である旨証言しており、また、三郷市は、水際作戦の再発防止のため福祉事務所のカウンターに誰でも手に取れる形で申請書を備え置くべきであるとの弁護団の要請を明確に拒否した。このように、申請書は自由に入手できない形で保管され、申請意思が表明されても、やすやすとは申請書を交付しないという形で、申請扱いにせず、審査応答義務を回避するという運用が行われてきているというのが実務の現状であり、要保護者にとっては、申請書を交付してもらうことが、生活保護を利用するための厚い障壁となっている。

また、派遣切り等で仕事と住居を喪失した人やDVから逃れてきた人など、ぎりぎりの状態まで追い詰められた人は、預金通帳や給与明細などを所持していないことが多いにもかかわらず、生活保護の窓口でこれらの書類の提出を要求されて追い返される例が後を絶たないというのが、これまでの反貧困ネットワーク埼玉等の支援活動の中で確認されてきた事実である。これまでは、厚生労働省でさえ、「住宅賃貸借契約書や預金・貯金通帳など、申請者が申請時において提出義務を負わないものの提出を求めることを内容とした書面を面接相談の際に使用し、それらの提出が申請の要件であるかのような誤信を与えかねない運用を行っている事例等、申請権を侵害、ないし侵害していると疑われる不適切な取扱いが未だにに認められている」(平成25年3月11日厚労省社会・援護局関係主管課長会議資料参照)として、同様の認識を示しているところである。

(2) 扶養照会による申請抑制効果

現行法下においても、扶養義務者に対する扶養照会が行われている。

生活保護を利用しようとする者の親族もまた生活に困窮していることが多く、そうでなくても、DV等の様々な事情により疎遠になっていたり関係が悪化していることが多い。このような背景がある中で、扶養義務者への通知がなされることにより、親族間の軋轢があらためて生じることやスティグマ(恥の烙印)を恐れて、申請を断念する場合が少なくなく、扶養照会によって申請が事実上抑制されているという現状がある。

(3) 捕捉率

このような違法な水際作戦の横行や扶養義務者に対する扶養照会等が行われている結果、生活保護の捕捉率(制度の利用要件を充たす者のうち現に利用できている者の割合)は、現行法下においても、わずか2割程度であり、諸外国に比べ著しく低い水準にある。

2 改正案の内容と問題点

(1) 改正案24条1項2項について

改正案は、生活保護の申請は、申請書を提出してしなければならず、また、この申請書には保護の要否判定に必要な書類を添付しなければならないとする(改正案24条1項、2項)。これは、申請書を提出し、かつ、申請書に給与明細等の必要書類を添付しなければ、有効な申請にはならないということを意味する(申請の要式行為化)。

上記のとおり、これまで、申請意思が表明されても①申請書を交付せず、あるいは②給与明細等の資料提出を求めて追い返すという方法を常套手段とする水際作戦が横行してきた。現行法下においては、申請は非要式行為とされ、口頭による保護申請も認められるというのが確立した裁判例であるから、このような水際作戦に対しては、支援者が窓口に同行したり、口頭による申請があったにもかかわらず審査応答義務を果たさなかった違法行為に対しては三郷事件のように訴訟で争うといった方法によって対抗し、違法行為を是正し、抑止することが可能であった。

しかるに、改正案が成立すれば、要否判定の必要書類を添付した申請書を提出しなければ申請とは認められず、口頭のみによる申請は要式を充たさないものとして無効となるから、福祉事務所は、これまで違法とされてきた①申請書を交付せず、②添付資料の提出を求めて追い返すという常套手段を、今後は法律のお墨付きを得て、合法なものとして堂々と駆使できることとなる。その結果、これまで以上に生活保護の申請が抑制され、捕捉率の低下を招くことは、必至である。

(2) 改正案24条8項、28条2項、29条

改正案28条2項は、保護の実施機関が、要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができると規定している。また、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。さらに、改正案29条は、保護の実施機関に対し、扶養義務者の収入等につき、税務署等に対する広範な調査権限を付与している。

このような改正案が成立すれば、扶養義務者との軋轢やスティグマを恐れる要保護者に一層の萎縮効果を及ぼし、生活に困窮する者の多くが、保護申請を断念する事態になることも明らかである。

3 保護申請権を形骸化させる改正案の撤回・廃案を

憲法25条は、すべての国民が健康で文化的な生活を営む権利を保障し、これを具体化した生活保護法は、すべての国民に対し、生活保護の請求権を無差別平等に保障し(2条)、保護請求権を行使する具体的な方法である保護の申請について、保護申請権をすべての国民に保障している。改正案は、憲法及び生活保護法によって、「権利」として保障された申請権行使の自由を奪い、これを形骸化させ、憲法25条を空文化させるものである。また、生活保護制度の見直しについて諮問されていた社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」においても、まったく検討されなかった事項を改正案に盛り込んだという点で手続的にも重大な疑義があり、到底容認できない。

政府は、閣議決定後、運用に変更はないとの弁明を始めているが、運用に変更がないなら、そもそも、あえて法律を改正する必要はないはずである。

よって、改正案の内容及び手続過程の不当性に強く抗議の意を表明するとともに、その撤回、廃案を強く求める。

2013年5月21日

三郷生活保護国家賠償請求訴訟原告弁護団
団 長  中 山 福 二

反貧困ネットワーク埼玉
代 表  藤 田 孝 典

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ホームレス総合相談ネットワーク《生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書》

ホームレス総合相談ネットワーク」(代表・森川文人〈弁護士〉)が《生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書》を2013年5月23日に発表しました。

☆転載開始☆

生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書

PDF→ http://goo.gl/wrQxS

2013年5月23日

ホームレス総合相談ネットワーク  代表(弁護士) 森 川 文 人

1 ホームレス総合相談ネットワークとは[A1]   私たちホームレス総合相談ネットワークは、主として東京都内においてホームレス状態にある人々をはじめとする生活困窮者に対する法的支援活動を行っている団体です。

2013年5月16日閣議決定された生活保護法改正案は、憲法25条に照らして重大な問題があることから以下のとおり意見させていただきます。

2 申請手続を要式行為とする改正案の概要
改正法案24条1項は、生活保護の申請にあたり、これまで口頭で申請の意思が示さ  れれば、申請行為としては足りるとされていた実務運用(大阪高裁平成13年10月19日判決(訟月49巻4号1280号〔上告棄却・確定〕)を改め、申請書の提出を申請者に対して義務付けています。そして、当該申請書には、「要保護者の氏名及び住所」等だけでなく「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」のほか「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出してしなければならないとし、同条2項は、申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。

3 改正案がもたらす事態
しかし、生活保護申請にあたって生活に困窮して福祉事務所を訪れた申請者に対して、複数の申請書の提出に加えて多岐にわたる書類の添付を義務付けることは、申請者の申請意思を抑圧・萎縮させることに直結します。本件改正は、生活保護の申請に不当な障壁を設けることにつながり、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する憲法25条に違反すると言わざるを得ません。

とりわけ、ホームレス状態の方々は、憲法上の権利として生活保護が受給できることをそもそも知らず、また、長期間の路上生活により心身共に疲弊しているなど、自ら生活保護を申請することが能力的にも困難な方が少なくありません。文字を読み書きする能力も無い方も大勢います。精神等の疾患を抱えて、書類の意味さえ理解できない方も決して珍しくありません。

ホームレス状態の方々は、全員住所をもたないため、郵送物を受け取ることができません。つまり、彼らが生活保護の申請をしようとした場合には、食事にも事欠くような絶対的貧困の状態にあり、電車賃すらないにもかかわらず、申請に必要な添付書類を集めるために、遠隔地にある複数の作成機関の窓口に、直接本人が行って、書類の交付を求めざるを得ないのです。なお、住所を持たないということは、ホームレス状態にある方々は、有効な身分証明書を持たないことも意味します。このような状態で、仮に本人が窓口までたどり着いたとしても、身分証明をもたない本人に対して、個人情報を多く含む必要書面の交付がなされうるのか、極めて疑わしいものです。

そのような方々に「申請書」の提出と複数の書類の添付を義務付けることは、不可能を強いるに等しい事態です。

上記法改正は、生活保護の申請を不可能にするという現実の効果をもたらすことは必至です。また、現実の生活保護行政をみても、福祉事務所の窓口で生活困窮者を追い返す「水際作戦」と称される違法な申請不受理、申請書不交付の事例が社会問題化しています。

このようなホームレス状態にある方々、その他の生活困窮者の置かれた状況、現実の福祉事務所における対応の実態を踏まえれば、今回の改正案によって申請書の提出、書類の添付を申請者に対して義務付けることにより、生活に困窮した人の生活保護申請を現在より一層困難にすることは明らかです。また、福祉事務所職員による違法な申請不受理、申請書不交付などの「水際作戦」にお墨付きを与えるものとなってしまいかねません。

4 改正案は、憲法25条1項に違反します
そもそも、生活保護制度は、憲法25条1項に基づき、全ての生活困窮者に対して健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度です。  生活保護申請行為に申請書、複数[A8] 書類の添付を要求する今回の改正案が申請者に一定の義務を課し負担を負わせるものである以上、法改正にあたっては、改正する必要性、合理性があるのか生活保護行政の実態と憲法25条1項で保障される権利の観点から吟味されなければなりません。今回の改正案は、不正受給対策のためと言われていますが、立法目的との関連も明確ではありません。

実際の生活保護制度をめぐる現状を踏まえれば、そもそも改正の必要性は存在せず、むしろ改正によって生活に困窮した人がより一層生活保護を申請しづらくなるという具体的弊害が予想されている以上、改正の合理的理由はまったく認められず、憲法25条1項に違反すると考えます。

5 廃案を求めます
私達は、ホームレス状態にある方々の法的支援を行い、福祉事務所において生活保護申請の支援を行う者として、今回の改正案によって、福祉事務所の現場でおこる苛酷な事態を容易に想像することができ恐怖すら感じています。  今回の改正案は、憲法25条1項が保障する生存権を奪う違憲な法案立法であると言わざるを得ず、法律家として断じて認めるわけにはいきません。改正案が、速やかに廃案とされることを求めます。                                       以上
☆転載終了☆

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