「反貧困ネットワーク」が《「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明》を2013年5月30日発表しました。その全文を転載させていただきます。
☆転載開始☆
2013年5月30日
生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急声明
私たちは、貧困問題の解決を目的として活動している市民団体です。
政府が本年5月17日に閣議決定した、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)につきまして、その内容に看過しがたい問題があるため、その廃案を求めて以下に緊急声明文を記します。
1 違法な「水際作戦」を合法化しようする点
現行の生活保護法では、保護の申請を書面による要式行為とせず口頭でも足るとされ、かつ、保護の要否判定に際して必要な書類の添付について、申請の要件とはしていません。
一方、改正案では、「要保護者の資産及び収入の状況」、「その他厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出し、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。
しかし、そもそも保護申請時に、諸資料の添付を申請者に求めるのは非常に困難です。ホームレス状態の人やドメスティックバイオレンスによって荷物を持たずに逃げてきた人など、諸事情によって資料をそろえられない人が、生活保護を利用できないと誤信し、申請をあきらめることが懸念されます。
2 扶養義務を事実上要件化しようとする点
次に、改正案は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを「義務化」しています。さらに、資産状況等の調査対象となる扶養義務者の範囲も拡大しています。
これに対し、現行法下においても、扶養義務者に対する通知が行われる運用はありました。それによって、保護の申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて、申請を断念する場合が少なくありませんでした。またドメスティックバイオレンスから逃げてきた女性や家族からの虐待があった場合には、扶養義務者へ通知することで暴力や虐待が再燃する危険があります。改正案によって扶養義務者への通知が義務化され、かつ調査対象も拡大し扶養義務者への通知が法律上避けられないものとなった場合、保護の申請を行おうとする要保護者は、より明確に扶養義務者への通知を恐れることとなり、一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかです。
3 厚生労働省の見解の矛盾
厚生労働省も5月20日におこなわれた生活保護関係全国係長会議において、申請時に口頭での申請を従来同様に認めることや、必要な書類の添付を要件とはしない旨、別途厚生労働省令で規定予定と説明しています。
また、扶養義務に関しては、その通知の対象となり得るのは、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限るとの旨、同じく別途厚生労働省令で明記すると話しています。
しかし、もしそうであれば、条文として明記することは必要なく、すでに現行法上でおこなわれている「水際作戦」の事例に、あたかも法的根拠を与えかねません。
4 その他多くの問題点が組み込まれている点
この2点の他にも、後発医薬品の原則義務化(34条3項)、就労自立給付金の創設(55条の4及び5)、生活上の責務についての規定(60条)、返還金の徴収金額の上乗せや事実上の天引きについて(78条)、罰則規定の強化(85条及び86条)、廃止理由の緩和(28条5項)など、多くの論点が、拙速な議論のもと組み込まれています。
これらは生活保護利用者一人ひとりの尊厳や自由を阻害するもので、管理することによって「自立を助長しよう」とする発想です。しかし、本来の生活保護における「自立の助長」とは、いわくその人のうちにある可能性を見出していく(小山進次郎)ものであり、これらの条文はその対極にあります。
5 結語
以上述べてきたように、改正案が成立すると、違法な「水際作戦」が合法化されて多くの要保護者が生活保護申請の窓口で追い返され、また、多くの要保護者が扶養義務者への通知をおそれて申請を躊躇うことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらずこれを利用することのできない要保護者が続出します。
改正案の法案提出理由には「国民の生活保護制度への信頼を高める」との記載があります。国民が求めているのは「水際作戦」を合法化するような、必要な人が利用できない生活保護制度への改正でしょうか。社会の責任を圧縮し、家族という不安定で不確かなものに責任を負わせる、穴だらけなセーフティネットへの改正なのでしょうか。
この改正案は要保護者の生活保護利用を抑制し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがあります。当ネットワークは、そのような事態を到底容認することはできません。よって、改正案の廃案を強く求めます。
反貧困ネットワーク代表 宇都宮健児
以上
☆転載終了☆
2013.05.30-20:00
「DPI(障害者インターナショナル)日本会議」が《生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明》を2013年5月27日発表しました。全文を転載させていただきます。
☆転載開始☆
2013年5月27日
特定非営利活動法人
DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 三澤 了
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-11-8
TEL:03-5282-3730 FAX:03-5282-0017
E-mail:office@dpi-japan.org
武蔵野ビル5階
生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明
私たちDPI日本会議は、すべての障害者の権利と地域社会における自立生活の確立を目指して活動している障害当事者団体である。
近年の広がる貧困や東日本大震災などの影響により、生活保護の利用者が2013年1月で210万人を超えたということがマスコミ等で伝えられるなか、生活保護制度に対する締め付けが今年に入ってから厳しさを増している。政府は2013年8月から生活保護基準の引き下げを行い、3年間で740億円の財政削減を行うことを予定し、保護受給者の生活をより厳しいものにしようとしている。
さらに政府は、生活保護費の圧縮を図ることを目的とした生活保護法改正案を5月17日に閣議決定し、今国会での成立を図ろうとしている。この改正案は一言でいえば、生活保護申請の方法をきわめて厳しいものとし、生活保護を利用しにくいものにすることと、要保護者の扶養義務者に過重な扶養義務を課すことを法律で定めようとするものである。憲法25条に則り、市民生活の最後の砦であり、セーフティーネットであるべき制度が、十分な国民的な論議もないままに、より使いにくく、より深いスティグマとなる制度へ変えられようとしていると言わざるを得ない。
第1に問題となるものとしては、生活保護申請の手続きに関してであるが、現行生活保護法では、保護申請をするにあたっては申請書類の提出は絶対的な要件ではなく、要否判定に必要な書類の提出も申請要件とはなっていない。保護を認めるかどうかの判断をするうえで必要と考えられる書類は、申請時に保護を求める側が前もって用意することを求められてはおらず、申請を受けつけた後に保護を出す福祉事務所等が要保護者の協力の下で収集するものとなっている。実際には、これまでも要保護者が保護を申請しようとしても申請書を渡さなかったり、書類の提出を求めて追い返したりという、いわゆる「水際作戦」なる手段がとられることがあったようだが、厚労省はそれらに対して「保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより,申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。」とする通知を繰り返し出してきた。しかるに今回は、申請するに当たっては、要保護者の住所、氏名はもちろん、その人の資産、収入状況、扶養義務者の状況など厚生労働省が定める書類を提出しなければならず、要否判定に必要な書類も申請する人が集め提出するものとなっている。
生活保護を申請する人は多くの場合、生活に余裕はなく、切羽詰まった状況にある人だ。また、多くの障害者がこの制度を利用し、糧として暮らしてきたが、中には精神障害や知的障害をもち、保護の申請に必要な書類を自分で用意したり、自分が保護受給の要件を満たしていることを証明する書類を集めることが困難な人も多い。障害者にとって今回の「制度改正」は、生活保護制度の利用を最初からシャットアウトするものに等しく、とても容認できるものではない。
今回の改正においてこの「水際作戦」の合法化と並んで、障害者の地域自立生活にとって深刻な影響を及ぼすものとして、扶養義務の要件化によるこれまで以上の扶養義務の強化が挙げられる。現行生活保護法では、扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず、照会をし扶養義務者からの仕送り等がなされた場合に収入認定して、保護費から減額するにとどめている。実際には、生活保護受給者の扶養義務者に対して扶養を強要し、生活保護申請を思いとどまらせようとする事例も少なからず見受けられる。少なくとも法的には、扶養義務は生活保護受給の要件ではなく、親族の義務となるものではない。
ところが今回の法改正においては福祉事務所などの保護の実施期間が、保護申請者の親族等に対して扶養に関する報告を求めることが出来るとされている。また、これから生活保護を受けようとする人だけではなく、過去に生活保護を受けていた人の扶養義務者に対しても「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の関係人に,報告を求めることができる」と規定している。つまり生活保護を受けようとしたり、過去に利用したことのある人の扶養義務者はその収入、資産の状況について報告を求められたり、年金機構や銀行などの調査をされたり、場合によっては勤務先にまで照会をかけられたりすることもある、ということである。これらのことは扶養義務を相当強く求めるということであり、扶養できるかどうかを洗いざらい調査し、調査の結果によっては、事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることができるということである。
先にも述べたが多くの障害者が親きょうだいから独立し、あるいは病院や施設を出て、地域での自立した生活を営むために生活保護制度を利用し、生活を成り立たせてきた。しかし生活保護受給に関しては親きょうだいから強く反対されたり、病院や施設での生活を続けることを強要されるケースも少なくはない。地域での自立生活を求める障害者が懸命に親きょうだいを説得し、生活保護受給を実現させたケースも多い。こうした状況が今回の扶養義務の強化によってより厳しいものになり、障害者の自立をより困難なものにしてしまうことが十分に想定される。
繰り返しになるが、障害者の親きょうだいからの独立や病院、施設からの地域生活移行に当たっては、障害年金をはじめとする障害者の所得保障の現状ではそれで生活を成り立たせることは困難であり、多くの場合生活保護制度は利用せざるを得ない制度である。そうした障害者にとって今回の「生活保護法の改正案」に盛り込まれた内容は、到底受け入れられるものではない。DPI日本会議としては生活保護法の改悪に強く抗議し、法案の撤回を痛切に求めるものである。
☆転載終了☆
2013.05.30-08:00