大阪弁護士会会長声明《要保護者の保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明》
「水際作戦」を合法化する生活保護法改正案について、
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要保護者の保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明
政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出したが、改正案は、いわゆる「水際作戦」を合法化し、さらには、要保護者をより一層委縮させることにより、保護申請自体を抑制する効果を与えるという看過しがたい問題を孕んでいる。
すなわち、まず、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面によることを要求しておらず、申請意思が客観的に明白であれば口頭による申請も有効であるとするのが確立した裁判例であり、また、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。
しかし、実際には、全国の福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられ、大阪市においても、2007年に、片目失明等の後遺症に苦しむ男性が、生活保護の申請に赴いたにもかかわらず、窓口で診断書等をそろえてくるように言われて申請を拒否され、その後、同居していた認知症の母親と心中を図り母親を殺害するという痛ましい事件に発展したことが報道されている。
ところが、改正案第24条1項は、生活保護の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書の提出をもってしなければならないとして要式行為化し、さらに同条2項は、申請書には「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」として、要否判定に必要な書類の添付までも必須の要件としている。しかしながら、このような改正がなされると、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けない取り扱いが合法的に行われることになり、まさに、これまで違法とされてきた「水際作戦」が合法化されることになる。
次に、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けており、さらに、改正案第28条2項は、保護の実施機関が、保護の決定等にあたって、要保護者の扶養義務者等に対して報告を求めることができるとしている。また、改正案第29条1項は、過去に生活保護を利用していた者の扶養義務者に関してまで、官公署等に対し必要な書類の閲覧等を求めたり、銀行、信託会社、雇い主等に報告を求めることができるとしている。
しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知によって生じうる親族間のあつれき等を恐れ、申請を断念することも少なくないことから、改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化され、調査権限が強化されることになると、要保護者の保護申請に対し一層委縮効果を及ぼすことは必定である。
こうした改正案に対する批判の高まりを受けて、厚生労働省は、「必要な場合は口頭申請も認める」、「書類の提出は保護決定まででよい」、「扶養義務者への通知は極めて限定的な場合に限る」などとして、従来の取扱いを変更するものではないとの弁明をし始めている。しかし、改正案の文言上、そうした解釈自体困難であるし、仮に、そうした取り扱いを法律の下位規範である省令等をもって定めるとすれば、改正案の内容に正当性がないことを自ら自認することになる。
当会は、2000年12月の近畿弁護士会連合会人権擁護大会を契機として、他会に先駆け、ホームレス問題などの貧困問題に取り組み、「水際作戦」の根絶に力を尽くしてきた。しかし、改正案は、こうした尽力を根本から否定し、生活保護法の根底にある憲法第25条の精神そのものを踏みにじるものであり、到底容認できない。よって、当会は改正案の廃案を強く求めるものである。
2013年(平成25年)5月21日大阪弁護士会 会長 福 原 哲 晃
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