DPI日本会議《生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明》

DPI(障害者インターナショナル)日本会議」が《生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明》を2013年5月27日発表しました。全文を転載させていただきます。

☆転載開始☆

2013年5月27日

特定非営利活動法人

DPI(障害者インターナショナル)日本会議

議長 三澤 了

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-11-8 

TEL:03-5282-3730 FAX:03-5282-0017

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武蔵野ビル5階


生活保護法改正案の廃案を求める緊急声明

私たちDPI日本会議は、すべての障害者の権利と地域社会における自立生活の確立を目指して活動している障害当事者団体である。

近年の広がる貧困や東日本大震災などの影響により、生活保護の利用者が2013年1月で210万人を超えたということがマスコミ等で伝えられるなか、生活保護制度に対する締め付けが今年に入ってから厳しさを増している。政府は2013年8月から生活保護基準の引き下げを行い、3年間で740億円の財政削減を行うことを予定し、保護受給者の生活をより厳しいものにしようとしている。

さらに政府は、生活保護費の圧縮を図ることを目的とした生活保護法改正案を5月17日に閣議決定し、今国会での成立を図ろうとしている。この改正案は一言でいえば、生活保護申請の方法をきわめて厳しいものとし、生活保護を利用しにくいものにすることと、要保護者の扶養義務者に過重な扶養義務を課すことを法律で定めようとするものである。憲法25条に則り、市民生活の最後の砦であり、セーフティーネットであるべき制度が、十分な国民的な論議もないままに、より使いにくく、より深いスティグマとなる制度へ変えられようとしていると言わざるを得ない。

第1に問題となるものとしては、生活保護申請の手続きに関してであるが、現行生活保護法では、保護申請をするにあたっては申請書類の提出は絶対的な要件ではなく、要否判定に必要な書類の提出も申請要件とはなっていない。保護を認めるかどうかの判断をするうえで必要と考えられる書類は、申請時に保護を求める側が前もって用意することを求められてはおらず、申請を受けつけた後に保護を出す福祉事務所等が要保護者の協力の下で収集するものとなっている。実際には、これまでも要保護者が保護を申請しようとしても申請書を渡さなかったり、書類の提出を求めて追い返したりという、いわゆる「水際作戦」なる手段がとられることがあったようだが、厚労省はそれらに対して「保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより,申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと。」とする通知を繰り返し出してきた。しかるに今回は、申請するに当たっては、要保護者の住所、氏名はもちろん、その人の資産、収入状況、扶養義務者の状況など厚生労働省が定める書類を提出しなければならず、要否判定に必要な書類も申請する人が集め提出するものとなっている。

生活保護を申請する人は多くの場合、生活に余裕はなく、切羽詰まった状況にある人だ。また、多くの障害者がこの制度を利用し、糧として暮らしてきたが、中には精神障害や知的障害をもち、保護の申請に必要な書類を自分で用意したり、自分が保護受給の要件を満たしていることを証明する書類を集めることが困難な人も多い。障害者にとって今回の「制度改正」は、生活保護制度の利用を最初からシャットアウトするものに等しく、とても容認できるものではない。

今回の改正においてこの「水際作戦」の合法化と並んで、障害者の地域自立生活にとって深刻な影響を及ぼすものとして、扶養義務の要件化によるこれまで以上の扶養義務の強化が挙げられる。現行生活保護法では、扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず、照会をし扶養義務者からの仕送り等がなされた場合に収入認定して、保護費から減額するにとどめている。実際には、生活保護受給者の扶養義務者に対して扶養を強要し、生活保護申請を思いとどまらせようとする事例も少なからず見受けられる。少なくとも法的には、扶養義務は生活保護受給の要件ではなく、親族の義務となるものではない。

ところが今回の法改正においては福祉事務所などの保護の実施期間が、保護申請者の親族等に対して扶養に関する報告を求めることが出来るとされている。また、これから生活保護を受けようとする人だけではなく、過去に生活保護を受けていた人の扶養義務者に対しても「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の関係人に,報告を求めることができる」と規定している。つまり生活保護を受けようとしたり、過去に利用したことのある人の扶養義務者はその収入、資産の状況について報告を求められたり、年金機構や銀行などの調査をされたり、場合によっては勤務先にまで照会をかけられたりすることもある、ということである。これらのことは扶養義務を相当強く求めるということであり、扶養できるかどうかを洗いざらい調査し、調査の結果によっては、事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることができるということである。

先にも述べたが多くの障害者が親きょうだいから独立し、あるいは病院や施設を出て、地域での自立した生活を営むために生活保護制度を利用し、生活を成り立たせてきた。しかし生活保護受給に関しては親きょうだいから強く反対されたり、病院や施設での生活を続けることを強要されるケースも少なくはない。地域での自立生活を求める障害者が懸命に親きょうだいを説得し、生活保護受給を実現させたケースも多い。こうした状況が今回の扶養義務の強化によってより厳しいものになり、障害者の自立をより困難なものにしてしまうことが十分に想定される。

繰り返しになるが、障害者の親きょうだいからの独立や病院、施設からの地域生活移行に当たっては、障害年金をはじめとする障害者の所得保障の現状ではそれで生活を成り立たせることは困難であり、多くの場合生活保護制度は利用せざるを得ない制度である。そうした障害者にとって今回の「生活保護法の改正案」に盛り込まれた内容は、到底受け入れられるものではない。DPI日本会議としては生活保護法の改悪に強く抗議し、法案の撤回を痛切に求めるものである。

☆転載終了☆

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